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Channel: 団塊Jrのプロレスファン列伝
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Longing/Love (あこがれ/愛)

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どうも!!流星仮面二世です!!

 

さて、プロレスにオールド、クラシックというジャンルがあるように、車という趣味にもオールド、クラシックという世界があります。そしてその中には、主に数十年前に生産されたものを指す「旧車」というジャンルがあります。

 

昔からの旧車好きの人や、若くして旧車を知り、魅力に取りつかれ乗り始める人。そのファン層は幅広く、個人で楽しむ人はもちろん旧車だけのクラブなどに入ったりして楽しむ人もたくさんいるようです。イベントも多く、セダン、スポーツクーペの他、バンにトラック。メジャーなものからマイナーなものまでと、まさに多種多様ならぬ車種多様な装いで、日本各地で盛んに行われているそうなんですね。

 

そういったあたりからか・・・最近は街中で昔の車を見かけることも多くなりました。つい最近は信号待ちでダルマセリカが対抗に陣取り大興奮。霞ヶ浦で見かけたフェアレディZのS30でヘラブナ釣りに来ていたオヤジは見た目もシブくてかっこよく、コンビニから出ようとしたときすれちがうように入ってきた430セドリックには思わず「あ、西武警察だ」と口走ってしまうほど・・・そう、実はボクも旧車は好きでして。つい目がいってしまうんです。

 

そんなある日。久々にクレスタのGX71、通称71クレスタなんて言われてましたね。これが走っているのを見かけました。

 

GX71 クレスタ

 

2代目として1984年8月にデビューしたこのクレスタは、それまでセダン車に持たれていたおじさん車の印象である古風で地味なイメージを払拭。大人から若者、そしてそれまで敬遠されがちだった女性までにも愛される大人気車となりました。

 

そのデザインや内装が一新されたことも人気車となった理由でしたが、クレスタの人気を決定づけたのはなんといってもテレビコマーシャルだったのではないかなと思っています。

 

トヨタ 新クレスタ CM(狼編) ジョージ・ウィンストン×山崎努(1984年)

 

ジョージ・ウィンストンの名曲「Longing/Love」をバックに映し出される山崎努とクレスタのシルエット。「車には詳しくないし興味もあまりないんだけど、このコマーシャルは覚えてるなぁ~」という方は、だいぶいたのではないでしょうか?斬新で衝撃的。かっこいい。そして人の記憶に残る。まさに名作だったと言えると思います。

 

でもボクには、それよりももっと印象深い・・・クレスタを見ると必ず思い出すことがあります。そうあれは、もう20年以上も前になるかなぁ・・・

 

それは26歳の頃のことです。当時ボクは食品容器を作る会社に勤めていました。

 

交替勤務があったその会社の夜勤には深夜2時上がりと3時上がりの2種類がありました。勤務形態は昼を1週やり、2時上がりを1週、3時上がりを1週し、明けてまた昼を・・・という感じでした。

 

その日は2時上がりの夜勤でした。こんな時間だと買い物して帰ろうにもコンビニくらいしかやっていませんし、会社は家から10分ほどの近い距離にあったので・・・会社から離れたところにあった自動販売機のたくさん並ぶところ、いわゆる自販機コーナーまで飲み物を買いに往復40分をドライブするのは夜勤の週のほのかな楽しみでした。

 

そこは何台も自動販売機が並んでいて、駐車スペースは砂利でしたが大型トラックやトレーラーも何台も止まれるくらいのなかなかの広さの場所でした。しかし田舎の一画なのでそこまで頻繁な車両の出入りはない、灯りもないひっそりとした場所でした。

 

自販機コーナーの並びの先には小さな屋根とテーブルが付いているベンチのある休憩所がありました。ベンチは向かい合って座れるような配置になっており、公園的な佇まい。高台であるここは眺めもいい場所だったので、ちょっとした隠れスポットでした。

 

時間にして明け方の3時くらいだったこともあり、普段は駐車スペースにキチンと停車するところ「どうせこの時間は誰も来ないからな」と、その休憩所の真ん前に車を止め当時ハマっていた紅茶花伝のロイヤルミルクティーを買いベンチに座りました。こうして夜の景色を眺めながらチビチビと飲み始めると

 

「ごらん街のぉ~灯りがぁ~消えていくよぉを~もぉうすぐぅ始ぃ発うぅがぁ~あぁ~」

 

と、浜田省吾の「愛という名のもとに」が自然とイメージされ、誰もいないのをいいことに思わずモノマネたっぷりに口ずさんでしまいます。


「眠れぬぅ~夜はぁぁ~電話しておくれぇぇ~」

 

と、歌もサビに差し掛かった、そんな憩いのひととき・・・1台の車が敷地に入ると、こちらに走ってくるのが見えました。

 

飲み物を買いに来た車かな?と見ていましたが、それにしてはやけにまっすぐ向かってきます。

 

「(なんか変だな?)」

 

砂利駐の上に巻き上がった砂煙がヘッドライトに照らされる中、まさに疾風怒濤に接近してきたその車は目前まで来たと思いきや、なんとボクの車の真後ろにピタリと着き、出れなくさせてしまいました。

 

ロイヤルミルクティーを持ったまま唖然としていると

 

「兄さん!!兄さん!!」

 

という声。暗闇の中、パワーウィンドウがゆっくりと下がっていくと、自動販売機の明かりに照らされた、ニタ~っと笑う女性の顔が・・・それはまるでカーテンコールに応えるかのようにゆっくりと、そしてうっすらと浮かび現れました。

 

「(ななっ!?なんだこいつは!?)」


そういえば聞いたことがある。高速道路のサービスエリアやパーキングエリアで仮眠しているトラックや乗用車のところに行ってドアを叩き、声をかけ無名のブランド品を売ったり売春を持ちかけたりするのがいるって話・・・そのドアを叩く音から通称「コンコン」なんて呼ばれたりするが、もしかしてコイツはそれなのだろうか?なんて考えていると、その女性はいつの間にか車を降りズイズイと接近してきました。


「ねージュース1本オゴッてよ」

 

と切り出してきたその全身を拝んだなら、服装はトレーナーとジーンズ。顔は小さく体型こそやせ形でしたが、その頭は暴徒化したすだれ柳のよう。まるで1980年代初め頃のジミー・スヌーカのような髪型の女性でした。

 

う、うむぅ・・・

 

「お願いー。1本オゴッてよ。お願いー」


「(おっ、おっかねーなぁ・・・)」

 

本当はイヤでしたが、ジュース渡せば帰るだろうと買ってあげると待ってましたとばかり


「兄さん優しいねー。ねーちょっと話聞いてくんない?ウチさー・・・」

 

と、ニコニコしながらボクをベンチに座らせると烈火のごとく話し出しました。

 

もちろん話など聞く気はなかったのですが、車は塞がれてしまったし・・・どうやら聞くことになってしまったようなので、とりあえずちょっとだけ聞いてみることにしました。

 

このジミー・スヌーカ、名前は「みはる」というそうで、結婚もしていて子供もおり、住んでいるところはここから10分くらいのところなんだそうです。

 

うむぅ~しかし一般の主婦が、なぜこんな時間にこんなところに?

 

「たった今、夫婦喧嘩して家を飛び出してきたのよー」

 

夫婦喧嘩かぁ。でもこんな時間に夫婦喧嘩ってのも、なんだかなぁ・・・と思っていると

 

「旦那がウチに女連れてくんのよー。毎晩。それで、ちょっとなんか言うと私のこと殴るのよ。今日は頭きて文句言ってやったら刀みたいな包丁で斬られそうになっちゃってさー。それで逃げてきたのよ。おまけに息子も女連れてきて寝泊りしてるし、居場所ないのよー」

 

と続けて話してきました。

 

話によれば、旦那と息子はそれぞれ堂々と家に女を連れ込んできては、みはるさんの部屋の壁1枚挟んだ向こうで夜な夜な楽しんでいるという状態なんだそうです。

 

当然みはるさんは旦那さんとは何年も夜の方がないそうで・・・そりゃま、その髪型じゃあなぁ・・・なんても思いましたが、それにしてもこの旦那。家に女連れ込んで、それを言われて逆ギレして嫁さんを包丁で追いやるというのはおかしな話。どう見ても異常です。それに平気で家に来るその女も気がちがってるとしか思えません。みはるさん、その風貌と様子から最初はクレイジーな人なのかと思いましたが、なんだかかわいそうになってきてしまいました。

 

まあ旦那は一旦置いといて、息子さんは独身なら仕方ない部分もあるかもしれません。でも、それでも母親のとなりの部屋でよくもまあ・・・息子さんは何歳くらいなんですか?

 

「あたし暴走族やってて19歳のときに子供産んだのよ、できちゃって。で、今、子供は17歳で高校生なの」

 

なんと息子さん、いい歳かと思ったらまだ高校生だったのか。うーん、それにしても17歳で毎晩女連れて家にねぇ・・・


しかし子供が17歳ってことは、19歳で子供産んだんだから・・・みはるさんはまだ36歳だったのか。髪型でフケて見えたけど、まだ若かったんだな~。きっと床屋も行くヒマもなくて癖毛大爆発でこんなになってしまったんだろう。さぞ波瀾万丈な人生を送ってきたんだろうなぁ。


「息子も旦那に似てるんでしょうよ。でね、そう旦那がウチに女連れてくんのよー。それでなんか言うと刀みたいな包丁でね、斬られそうになっちゃってさー」

 

ああ、刀みたいな包丁ねぇ。刺身包丁か何かかなぁ?なんでそんなもの持ってるんだか・・・


「で、あたし暴走族やってたのよー。それで19歳のときにできちゃって子供産んだのよ。で、今ね、子供17歳で高校生なのよ。それなのに女連れてウチ来るのよー。毎晩よー。おかげで41歳にもなって家出よー」


17歳で毎晩ねぇ・・・末恐ろしいよなぁ。って、あれ?みはるさん、41歳?

 

「それでね、旦那もね、ウチに女連れてくんのよー。で、なんか言うとね、毎晩包丁みたいな包丁で斬られそうになってるのよ」

 

ほ?包丁みたいな包丁?

 

「息子も女連れてきて壁の向こうでやってるのよー。17歳で高校生なのね。あたし19歳のときに子供産んだのよ。できちゃって。だから居場所ないのよー。だから41歳にもなって家出してきたのよー」

 

いや、24歳のときの子供じゃ・・・?

 

「それでね、旦那がウチに女連れてくんのよー。ウチによ!?で、包丁みたいな刀持っててね、斬られそうになっちゃってさー。だからアタシも車にその包丁を積んでるのよ。見る?刀みたいな包丁」

 

な?なんで旦那が持っているはずの包丁をみはるさんが積んでるんだ・・・?

 

「それでね、あたし暴走族やっててね、19歳のときに子供できちゃって産んだのよ。それで子供は今17歳で高校生なのね。なのに毎晩女連れて家に来るのよ。だから包丁積んであるのよ。見る?」

 

うーん・・・

 

「旦那がウチに女連れてくんのよー。毎晩よ。ウチによ!?で、包丁みたいな刀のね、持っててね、斬られそうになっちゃってさー。だからアタシも車にその包丁を積んでるのよ。見る?刀みたいな包丁」

 

「あたし暴走族やっててね、19歳のときに子供できちゃってね、産んだのよ。それで子供は今17歳で高校生なの。なのに毎晩女連れて家に来るのよ。あ、包丁見る?見る?」

 

「41歳にもなって包丁で斬られそうになっちゃってさー。旦那、家に女連れてきてさ。だからアタシも車にその刀を積んでるのよ。刀みたいなの。見る?見る?」

 

これは・・・さっきから同じ話ばっかりするし、包丁が進化しちゃって刀になってるし・・・旦那が持ってるはずが車に積んであって、しかも見せたがる。で、結局、見せない。なんなんだ!?

 

それにだ。今41歳で子供が17歳なら24歳のとき生まれた子のはずだ。いやそりゃ、子供の生まれた歳を1年前後とかは勘違いしてしまうときはあるけど、おなか痛めて産んだ子供のことを母親が5年もまちがえるなんて、ちょっと考えられない。

 

みはるさん、おかしいのは髪型だけかと思ったが、やっぱり中身もだったのでは・・・

 

そうだ。そうだったんだ。ああ~なんてことだ。最初にクレイジーな人と思ったおれの勘は正しかったんだ。やっぱりクレイジーな人だったんだよ。そう、クレイジー・ゴナ・クレイジー♪なんて歌ってる場合じゃないぞっ・・・一刻も早くここから脱出せねば!!

 

危機を察知したボクは

 

「それじゃ、そろそろ帰るんで・・・」

 

と立ち上がろうとしました。するとみはるさんは焦ったかのように体を動かしボクの袖を掴んで行く手を阻んできました。

 

その距離の、なんという近さ。しかもボクは座ったままだったので、みはるさんから見下ろされる状態となってしまいました。

 

普通女性とこんなシチュエーションになったらドキドキですが、それはまさにちがった意味でドキドキでした。そう、ここでさっき見せなかった包丁を実は持っていて「まだ帰らないで」と出されたら・・・という不安感が過ったからです。

 

よーし、掴まれている左右の袖を重ね固めて左手で制御。そして掌底を下から頬骨に入れながら立ち上がり、あとは一目散だ。フッ、まさか今日「骨法不動打ち」をここで披露しなければならなくなるとはなっ!!

 

しかしそんな次元とは別次元にいたみはるさんは

 

「ねー。この場合、離婚となったら慰謝料って取れるのかな?慰謝料出たら居酒屋やろうと思ってるんだ。取れるかな?」

 

と言ってきました。

 

い、居酒屋だってぇ!?まさかその包丁みたいな刀とやらで小料理作って「スーパーフライな女将が作るミックスフライのおいしいお店」とでも洒落込もうってのか!?

 

「居酒屋いいよね?包丁でお料理作ってさ、ねーいいでしょー」

 

って、やっぱり包丁か!!

 

というか、どうやら攻撃する意思はないようなので

 

「そうですね。いいですね~。じゃ本当にそろそろ帰るんで・・・」

 

と今度こそ立ち上がると、さらに焦ったかのように服の袖を掴み歩を詰め

 

「お兄さん、あたしの車ガソリンもうないのよ・・・」

 

という信じられない言葉を発してきました。

 

ウソかもしれません。本当だとしても、ここは田舎の片隅。こんな時間にこの周辺15キロ圏内で開いているスタンドはありません。残り燃料がどれくらいかはわかりませんが、どっちみち大きな国道まで行かないとスタンドはないので、みはるさんの選択肢は家に帰ること以外ないはずなのでした。

 

でも、これで帰れるような気がしたボクは、これでなんとかしてくださいと1000円だけ渡しました。

 

するとみはるさんはうれしそうに車に向かって行きました。


「(これでやっと帰れる・・・)」


帰れるだなんて・・・見ず知らすの人にガソリン代なんてなぁ・・・と思った方もいたかもしれません。でも実際は40分くらい同じ話を聞かされていたので、金ならやるから自由にしてくれーという思いで、このときはいっぱいだったのです。

 

車に乗らんとドアを開けたみはるさんは振り向き言いました。

 

「兄さんのこと忘れないからね!!居酒屋やったらこの辺に店出すからさ。「みはる」って名前にするから来てよ!!そのときはただにしちゃうから!!」


ふんっ!!誰が行くかい!!おめーと飲むならダスキンモップとリッツ・パーティしてた方がマシだぜ!!

 

とは思ったものの・・・その振り向いたときのうれしそうな顔と去っていくときの悲しそうな後ろ姿のコントラストには、えも言えぬものがありました。

 

やがて走り去っていった、みはるさんの車。来たときと同じように砂利駐の上に巻き上がった砂煙。しかしそれは、今度は独特の大きなテールランプ、そう71クレスタのテールランプに照らされて・・・赤く浮かび上がったのでした。

 

あれから20数年。今でもこの場所はあり、このあたりも時おり車で通ります。しかし未だ、その周辺に「みはる」という店を見たことはありません。

 

長い間、ボクの中でみはるさんは「変な人の思い出」でしかありませんでした。でも自分の子供も大きくなり、自分も年を取った今になると、いろいろと思うことが出てくるようになりました。

 

みはるさんは常人に比べたら確かにファンキーな人だったとは思います。でも、おそらくここまでブッ飛んではなかったのではと・・・思うのです。素直すぎる性格がゆえ、旦那、息子につま弾きにさる日々を送っていくうち精神的に参ってしまい、現実や妄想の区別もつかなくなってきて・・・あの日はそういったことが爆発してしまった日だったのでは?それで夜も眠れずさ迷っていたのではと・・・思うのです。

 

苦労してたどり着いた優しい旦那さんとかわいい子供との幸せな家庭。でもみはるさんにとって、それはLonging/Love (あこがれ/愛)だったのかもしれません。

 

そんなことを・・・あの日、みはるさんが乗っていた71クレスタを見かけると思い出すのです。一期一会、とても変わった出会いでしたが、あの日には何か意味があったんだろうなと・・・そして今はどうしているのかなと、思い出すのです。

 

本年はこれが最後の更新となります。今年も1年、ありがとうございました。



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