パート3より、さあ~最終です。
6月7日 長野県・松本市体育館 (第24戦) その2
アンドレが藤波を下してトーナメントに優勝した松本大会。藤波の善戦で大いに盛り上がりましたが、同大会には話題がもうひとつありました。そう、この日からいよいよWWFヘビー級王者のハルク・ホーガンが参戦となったのです。
ホーガンは、この7日より最終戦までの参戦です。その第1戦目は、アイアン・マイク・シャープと組み猪木、木村組とのタッグマッチでした。
タッグマッチ 60分1本勝負
アントニオ猪木、木村健吾vsハルク・ホーガン、アイアン・マイク・シャープ
○猪木(17分17秒 逆さ押さえ込み)シャープ
来日第1戦目のこの日は得意のアックス・ボンバーをカウンター、元祖串刺し式など試合で3発。試合後は腹いせとばかり木村へ1発と乱打です。試合中も攻撃しながら猪木を挑発するなど、まったく猪木、木村を寄せ付けず。貫禄を見せつけました。
猪木に強烈なアックス・ボンバーを叩き込むホーガン
木村を軽々と担ぎ上げ猪木を挑発する。貫禄も充分のホーガン
80年に新日本に登場。体格はされど、当初はぎこちない試合運びだったホーガン。しかし来日の度に日本でパフォーマンスからテクニックまで、あらゆるプロレスを吸収、自己啓発し、やがて猪木を倒すまでに成長していきました。そんなホーガンのこのシリーズでのファイトは、もはや"新日本で育った"という言葉など払拭するほど・・・世界中で完全にひとつの存在"ハルク・ホーガン"という"世界"として確立していました。あまりにも強大にして巨大なホーガン。このホーガンに藤波、猪木は勝利することができるのでしょうか?
6月8日 長野県・飯田勤労者体育センター (第25戦)
長野連戦です。2日目、この日は特別試合等はありませんでしたが、昨日から登場したホーガンはセミファイナルで坂口とシングルで対戦です。
前日は日本陣営をまったく寄せ付けず強さを見せつけたホーガン。坂口戦は対・藤波、猪木戦へのアイドリングかのよう・・・わずか4分13秒、体固めで坂口を料理してしまいました。あまりにもスケールアップしてしまったホーガン。藤波、猪木の戦略はいかに?
6月9日 岐阜県・大垣市スポーツセンター (第26戦)
長野から西へ、中部・岐阜です。この日も特別試合等はありませんでしたが、猪木、藤波、ホーガン、アンドレの注目の4選手の模様は気になるところです。
まず猪木との優勝戦を控えたアンドレはセミファイナルで坂口征二とシングルです。70年代は新日本でも黄金カードだった両者の対決ですが、この日は坂口を仮想・猪木と見て4分20秒、体固めであっさりと料理。先だっての神戸では猪木にやや劣勢だったアンドレでしたが、今回はどうなるでしょうか?
WWFヘビー級選手権を翌日に控えた藤波とホーガンは、メインの6人タッグで激突。藤波は猪木、木村と組みホーガンはマードック、アドニスと組んでの前哨戦となりました。しかしスーパー・バイオレンス・コンビとホーガンの合体という強烈にして強力トリオに思うようにはいかず。結果は16分23秒、猪木とホーガンが両者リングアウトとなりました。明日の決戦はどうなるでしょうか?
6月11日 東京・東京体育館 (第27戦)
大一番を迎えます東京体育館です。まずはこちら。
WWFヘビー級選手権 60分1本勝負
ハルク・ホーガンvs藤波辰巳
○ホーガン(11分4秒 体固め) 藤波
藤波がハルク・ホーガンの持つWWFヘビー級王座へ挑戦です。この年の2月5日に愛知県体育館、6日に大阪府立体育会館とホーガンと2連戦で激突した藤波。初戦はホーガンを流血に追い込み、あと一歩のところまで行きながら無念のフォール負けを喫したものの、2戦目では両者リングアウトとフォールを許しませんでした。あれから4ヵ月、ホーガンと戦う度にレベルを上げる藤波に期待です。
試合は開始早々、ホーガンがパワーを誇示し藤波をコーナーへと振り回します。ここで早くもアックス・ボンバー。しかし藤波は冷静に交わしローキック。続くカウンターのエルボーを交わしてドロップ・キック2連発です。
早くて鋭い藤波のドロップキックがヒット
これを端に藤波は交わしては攻め交わしては攻めのプロレスで試合を進めていきます。しかしホーガンも、もはや百戦錬磨。藤波の攻撃に小技を挟みグランドで攻め、ペースを掴まんとします。
やがてバックドロップにはバックドロップ、ハンマーロックにはサソリ固めと切り返す藤波にホーガンは初期のフィニッシュだったカリフォルニア・クラッシュまで繰り出し応戦。そして再びカウンターのエルボー・・・しかし藤波、これを交わしアンドレをスリーカウント寸前まで追い込んだボディアタック一閃です。業を煮やしたホーガンはロープに振ってのアックス・ボンバー!!しかしこれも交わした藤波は逆ラリアートです!!
藤波得意のすれちがい様ひとり時間差攻撃だ
もしや!?と思わせる藤波の連続攻撃に会場は熱狂。しかしここからホーガンは早々交わされたコーナー串刺しアックス・ボンバーを間を詰め交わすスキを与えず炸裂させます。これでダメージを負った藤波は疾走・・・最後はホーガンがアックス・ボンバーの体勢から腕を巻き付けネックブリーカーのように捻りながら浴びせ倒しスリーカウントを奪いました。
アックス・ボンバー・ブリーカーと言わんばかりの、まさに"ねじ伏せる"ようなホーガンの一撃だった
藤波、もしやと思わせる戦いでしたが、ホーガンの壁は高かったか・・・しかし、また見たい。次こそは!!そう思える戦いでした。
こちらも必見です!!
そしてメインです。パート1でも説明しましたが、この試合は本来、IWGPトーナメント優勝者のアンドレと前年優勝者でIWGPのベルトを保持していた猪木との間で行われるIWGPヘビー級選手権試合となるはずでしたが、前年優勝者の猪木と本年優勝者のアンドレとの間で行う優勝戦となります。つまり勝った方が第3回IWGP覇者となる試合です。
さあ、5月24日、神戸ワールド記念ホールで行われた特別試合では勝利に手応えを持った猪木。今回は快勝し呪われたIWGPを払拭、晴れて優勝となるでしょうか!?
第3回 IWGP優勝戦 60分1本勝負
アントニオ猪木vsアンドレ・ザ・ジャイアント
○猪木(13分50秒 リングアウト)アンドレ
試合前、今ではやらなくなってしまいました国家斉唱が行われます。フランス国歌の流れる中、直立不動しじっと一点を見つめるするアンドレ。そのシーンには76年10月7日、蔵前で行われた異種格闘技戦を思い起こします。緊張感が高まる瞬間です。
その後、なかなかリングから降りない若松をアンドレがドレッシングルームまで引き上げさせます。介入をさせない・・・その表れか?試合開始からのアンドレはひと味ちがいました。
アンドレは開始からフロントからのネックロック、スリーパー、頸動脈クロー、そしてダニー・リンチ、カール・ゴッチがかつて使い、今や幻の技となってしまったスタンディング・クラッチを見せるなど徹底した密着プレイ、首狙いで攻めてきました。前回のシングルから一転、大技を封印し猪木に対し完全正攻法、正統派レスリングで攻めたのです。
その様は、まさにジャイアント・クロー!!猪木の表情が歪む
解説の桜井さん、小鉄さんも長年、猪木とアンドレのシングルを見ているが、こんな攻め方は初めて見ると思わず唸ります。
じっくりにして強烈。この思わぬアンドレの正攻法の攻めに攻めることができず、猪木はいいところがありません。やがてアンドレはフロント・ネック・チャンスリー・ドロップから再び頸動脈クロー、首だけのサーフボード・ストレッチから18キックと勝負に出ます。さらにここで場外へエスケープした猪木へ追い討ちボディスラムと、ここまで攻撃一辺倒です。
しかし先にリングに上がったアンドレを猪木、背後からドロップキックで奇襲。再び場外に落ちアンドレは再びボディスラムです。しかしこれを切り返し背後を取った猪木はアンドレを鉄柱へ強烈に激突させます。
これが相当効いたアンドレは半ば朦朧、フラついてエプロンへ。ここで猪木がサイドから延髄斬り。しかし交わされてしまいます。ならばと2発目を背後から。当たりは浅かったですが、勢いがつきバランスを崩したアンドレはそのままもたれる形でエプロンでロープにからまってしまいました。
な、なんと・・・
これに対し猪木、背後からキックで襲撃。ここから猪木のペースになると思われましたが、気がつくとゴングが!!なんと、ここでカウントアウトです!!
会場は「え!?」という不穏な空気に・・・まさに狐につままれたようなアンドレのリングアウト負けとなりました。
試合後、優勝となりながらベルトを腰に巻かなかった猪木・・・それは、ほとんどを攻められて終わってしまった落胆からか!?しかしファンもしかり、この結果には悲しみしかありません。やはりIWGPは呪われているのか・・・2日後のホーガンとの一騎討ちは大丈夫なのか!?最後の最後までわからないIWGPです。
6月12日 神奈川県・横浜文化体育館 (第28戦)
最終戦直前のこの日は決戦前の豪華な箸休め。メインで夢のタッグマッチが実現しました。
タッグマッチ 60分1本勝負
アントニオ猪木、坂口征二vsハルク・ホーガン、アンドレ・ザ・ジャイアント
○アンドレ(12分40秒 体固め)坂口
ふたりがタッグを組んでのタッグマッチは82年4月、カリフォルニア州オークランド以来。変則マッチでは84年7月にニュージャージー州で、なんとマードック、アドニス、スタッド組を相手に3vs2で実現しています。しかし日本では最初で最後。貴重な一戦となりました。
豪華な顔合わせとなった超人・大巨人コンビ
試合は、相打ちが一度あったものの、アンドレがホーガンとコミュニケーションを取りながら、まったく問題ないチームワークで日本側を圧倒。
最後はホーガンのアックス・ボンバーからアンドレの18文キック、そしてヒップドロップと殺人フルコースで坂口を料理。まさに圧勝となりました。この日は、とにかくアンドレがご機嫌。楽しかったのか・・・試合後は会場でヒンシュクを買うほど大笑いして喜びを露にしたそうです。それにしても、これだけのビッグマッチがなぜ突然組まれたのか?そしてなぜノーTVだったのか?ファンの興味は尽きません。
6月13日 愛知県・愛知県体育館 (第29戦)
さぁー5月10日の福岡から日本中を駆け巡り行われてきたシリーズも、いよいよ天王山です。猪木、すっきりと勝利して晴れてベルトを巻くか!?それともホーガンが2年ぶりにIWGPのベルトを手にするか!?
ついにふたつのベルトが並びます
IWGPヘビー級選手権試合 60分1本勝負
アントニオ猪木vsハルク・ホーガン
○猪木(11分25秒 リングアウト)ホーガン
試合開始前、レフリーのボディチェックが行われます。先にホーガン。そして猪木と続きますが、猪木が自身のリングシューズのチェックを拒みながらホーガンのリングシューズに何かクレームをつけます。レフリーが再びホーガンのシューズをチェックし始めると、なんと猪木!!
延髄斬り!!
ゴング前に猪木の奇襲攻撃炸裂!!意表を突かれたホーガンは場外で後頭部を押さえます。手を叩き自らを鼓舞するは猪木。猪木が燃えています!!
試合は、開始から猪木パンチ、ホーガン張り手。手四つからホーガンがレッグシザース、スリーパー、猪木もレッグシザースからスリーパーとお互いに返していきます。やがて、場外でホーガンが猪木を鉄柵へ痛打。さらに場外ボディスラムと攻めます。しかし猪木、リング上で手四つからドロップキック。そこからアリキック、パンチの乱打、ストンピングでラッシュです。しかしホーガン、その後ジャンピング・ニーアタック、ハイアングル・バックドロップ、エルボードロップと畳み掛けます。そして元祖串刺しアックス・ボンバーです!!
蔵前の悪夢が脳裏を過る!!
カウント2.9でなんとか返しますが、その後、場外戦でフェンスでの串刺しアックス・ボンバーです。これが強烈にヒット。さらに鉄柱へ串刺しアックス・ボンバーですが、猪木、これを交わしてふらつくホーガンに延髄斬りです!!この間に猪木リングへ、しかし足を持つホーガン。それに対し猪木はレフリーのカウントを頭に入れながら、ホーガンを引き付けておいてキック!!そしてカウントギリギリでリングインです!!
決死のリングアウトに歓喜を上げる猪木
レスラーとしての技量に加え、その存在自体があまりにも巨大になってしまったホーガン。この頃には、もう猪木が勝利することは想像できなくなってしまっていました。しかしプライドや手段にとらわれず、どんなことをしても勝ってやるという意志が、この試合には表れていました。だから、それがリングアウトでも、これだけの喜びが沸いたのかもしれません。そして・・・
初めて正々堂々、リング上でベルトを巻いた猪木
KO負けという予想外な結果になった第1回。長州乱入で台無しになった第2回。IWGPの歴史が始まってから、これまで猪木が納得の行く形でベルトを巻いたことはありませんでした。しかしこの日は正々堂々とリング上でベルトを巻きました。会心・・・それは猪木にとって、あまりにも長かった3年でした。
さあ、ということで4回に渡り振り返ってまいりましたIWGP&WWFチャンピオンシリーズ、いかがでしたでしょうか?
振り返れば、これまでにない参加外国人レスラーの多彩さ、トーナメント戦、特別試合、選手権の充実、マシーンの確執に藤波の大活躍、猪木の念願と・・・実にいろいろな出来事があったシリーズでした。
あれから33年が経ちました。今や、この歴戦の数々を思い出すときなど、すっかりなくなってしまっていました。しかしIWGPという名を耳にすれば、思い出すのは興奮の鼓動、熱い熱気、そして夢とロマンでした。そう、あのとき、プロレスにはグランプリがあったのです。
最後までありがとうございました。