パート1からの続きです。
探偵「先輩、これは!?」
先輩「ダブルリストロックの体勢だ」
探偵「ダブルリストロック!?関節技ですか!?」
先輩「そうだ。どうする・・・」
探偵「・・・(ゴクッ)」
探偵「回った!!」
探偵「ああ!?キャドックがタックルっ!?せ、先輩、これは!?」
先輩「ああ。順を追って説明しよう。まず12分くらいから片足タックルを切りながらステッカーは腕を取りに行った。やがてスタンドで腕を取ったステッカーに対しキャドックは防御を取ろうとした。ここまでは前回、説明したとおりだ」
探偵「はい」
先輩「その後、キャドックは踏み込まれんとステッカーの左足を押さえたり足を取って形勢を変えようと動作する。だがスッテカーは依然チャンスと腕を引き抜かんとする。ルー・テーズの画像を使って説明すると、いわばこの体勢だ」
探偵「はい。猪木さんがテーズに左腕を取られているのがわかります」
先輩「12分23秒、スッテカーは後方へ回転しアームロックの態勢でグラウンドへ持って行く。ただ、ステッカーは左足を股の下に入れながら縦に回ったので技への意味や形に関してはこの画像とはちがう点があるが、あいにく縦回転のがみつからなかったので・・・イメージ的にはこの感じということで勘弁してくれ」
探偵「なるほど」
先輩「と、ここからダブルリストロックにいくわけだが・・・しかしキャドックは、おそらくこの回転を利用して脱出し、いったん離れスキができたところにチャンスとばかり間髪入れずタックルにいった。しかしステッカーはこれを読み、交わす・・・という流れだったわけだ」
探偵「そうだったのか!!すごい!!」
先輩「ああ。すごい攻防だ。8mm映像なんでわかりずらいが、よーく聞くとステッカーが腕を取ったとき場内の歓声がやや大きくなるのもわかるね」
探偵「そうですね」
先輩「それと・・・」
探偵「それと?」
先輩「ダブルリストロック、いわゆるアームロックは古来から日本はもちろん世界で存在していた関節技だ。そして現在でも様々な格闘技で使われているが・・・」
探偵「はい」
先輩「今回のこの映像は技が決まるシーンこそ見れなかったが、アームロックの入り方に関しては、おそらく最古の映像ということになると思う」
探偵「そうか。古くから存在していた技ですが、実際の入り方がどうだったのかなどを考えれば、これは資料的価値も高いわけですね」
先輩「うん。しかもその最古の映像の取り方が、片足を取られている状態から手を切り、腕を取るという入り方だなんて・・・」
探偵「すごいことなんですね」
先輩「ああ。普通に考えたなら、まずあの状態から相手の腕の関節を取るという発想に至れない。もし至ったとしても、最初に左腕で抱えていた右腕、つまり自分に近い方を取るはず・・・いや経験者ならそっちを取ってしまうはずなんだ。でもステッカーは自分から遠い位置にある左腕を取りにいった。すごい。思いつかないよ。現在では様々な関節技の技術が世に出ているけど、こんな入り方は見たことがない。こんな入り方があったなんて本当に感動ものだ。フォール決着のみのレスリングだなんてとんでもない。奥が深い。素晴らしすぎる攻防だ」
12分39秒 早い動き。激しくバックを取り合う
探偵「激しい攻防ですね。先輩、やはりお互いバックに回り攻撃したい感じですね」
先輩「うん。ステッカーの狙いはバックから得意のボディシザーズでまちがいないだろう。しかしキャドックは試合早々からバックに回ったあとの攻めが不鮮明。タックル技術ではステッカーよりも上だが、先ほどタックルを関節に切り返されたことで、もう安易には入れなくなってしまっただろう。この先どうするかだな」
探偵「キャドック劣勢ですか・・・」
12分57秒 膠着から映像が悪くなり、良く見えない
先輩「うーん、映像も不鮮明になってしまったか・・・」
探偵「グランドの展開のようですが、完全にわからないですね」
13分15秒 映像が換わり、グランドでバックの取り合いからスッテカー。またもボディシザースを狙う
探偵「ステッカーは、やはり右ヒザをつき左足を入れる入り方なんですね」
先輩「うん。それにしてもキャドックの防御がすごい。体をあらゆる態勢にし、絶対に入らせないようにしている。このあたりを見ると、ステッカーのボディシザースは“一度入られたらおしまい”なんだろうな」
探偵「なるほど。まさに“必殺”ですね」
14分10秒 キャドックがステッカーのグランド攻撃から回避しスタンドに。その後、テイクダウンになるが、また映像が悪くなり、どうなったのかわからない
先輩「どうもこの引きで撮った映像に切り換わると見えなくなるな」
探偵「何分、昔のフィルムですからね。でも、おそらくスッテカーがバックからボディシザースを狙っている様子ですね」
先輩「そうだな。キャドックはスタミナも切れてきたのかもしれない」
15分00秒から動きがあり、15分07秒から映像が換わり鮮明になってからスッテカーの片足タックル
探偵「パート1で説明してもらったようにステッカーの片足タックルを足を入れ防御していますが、もはや守るのが精一杯という感じに見えますね」
15分25秒 ステッカーがテイクダウンを奪いボディシザースに入る態勢に
探偵「この映像がステッカーのボディシザースの入り方を一番鮮明に見れるとこかもしれないですね」
先輩「ああ。あ~でもまた映像が・・・」
探偵「うむむ・・・ダメかぁ」
15分39秒 また映像が換わり不鮮明に
先輩「よく見えないが、しかしスッテカーがバックからボディシザースを狙っている様子はわかるね」
探偵「そうですね。攻防が見えないのは残念ですが、淡々とボディシザースを仕掛けるステッカーに、それを防御するキャドックの攻防は臨場感あっていいですね」
先輩「そうだな。まさに息詰まる闘いだ」
16分35秒 不鮮明だがグランドの態勢が変わった様子
探偵「何か動きがあったと、キャドックが下でなくなったように見えますね」
先輩「キャドックはスイッチしたのかな?」
探偵「スイッチ?」
先輩「うん。言葉で説明するのは難しいんで省略するけど、バックに回られた状態から相手のバックに回るスイッチという切り返し技がレスリングにはあるんだ。おそらくそれをしたんじゃないかなぁ」
探偵「へぇ~。そんな動きがあるんですね」
先輩「うん。レスリング経験者じゃなくても、昔の新日なんかじゃ藤波とかね、使う人いたんだけどね。今はグランドの展開自体なくなっちゃったから見なくなったなぁ」
17分00秒 立ち上がる。以後、不鮮明
17分15秒 両者転がる形でグランドに。でも不鮮明でわからない
17分46秒 映像が換わる。と、ボディシザースの態勢に。しかし、これも入っておらず、立ち上がる
18分05秒 カメラが換わりスタンドの状態からになる
18分23秒 ステッカーがバックに回る
探偵「またしても同じ展開になりましたね」
先輩「ああ。キャドックはスタンドでも序盤の勢いがなくなってしまいテイクダウンを取られるばかりになってしまった。グランドも防ぐのに精一杯という感じだ」
探偵「先輩、映像を見ていると、ステッカーは腕を取りに行っているように見えるんですが、どうでしょうか?」
先輩「うん。腕を取りフォールの態勢へ持っていいく、というのもある。それと、腕を取り、相手に腕の防御をさせることで下半身を浮かせて足を入れる・・・腕を取ることで意識を上に行かせて下を、というのを狙っているのかもしれないな」
探偵「なるほど。ボディシザースのための腕取りというわけですか」
先輩「そして逆も然り。腕を取り下半身を浮かせて足を入れようとすることで意識が下、つまりボディシザースにいったところで腕にいく、というのもあるだろうね」
探偵「へぇ・・・一見すると地味な画でも、ものすごい展開が成されているんですねぇ」
19分00秒 キャドックがネルソンでキャドックを反転させる
探偵「これですね!!」
先輩「そうだ。しかし、このままだとキャドックはフォール負けしてしまうぞ・・・」
19分16秒 完全に仰向けになってしまったキャドック
探偵「キャドックは完全に乗られていますよ!!」
先輩「ああ、マウント状態で完全に手四つで抑えられている。これはピンチだ」
19分29秒 キャドック、ブリッジから反転し脱出
探偵「脱出した!!先輩!!」
先輩「うーん、あそこまで押さえられていて抜け出すとは・・・キャドックもタダモノじゃないな」
19分35秒 カメラ換わり、ステッカーの片足タックルからテイクダウン
19分57秒 映像変わりキャドック片足。しかし倒すに至らずコーナーへ
探偵「久々のキャドックのタックルでしたが押してくだけで終わってしまいましたね」
先輩「ああ。足を取ったはいいが、もうコントロールできなくなっているんだ。明らかに体力がなくなってきている。この試合の映像は全部で25分くらいになっているが実際の試合時間は2時間5分だったそうだからなぁ・・・」
探偵「に、2時間!?体力消耗もうなずけますね・・・」
先輩「でも、それだけじゃないんだ。キャドックが戦時中に陸軍だった話は最初に出たが、そのとき戦地で毒ガスを吸ってしまい、以降は肺機能が正常じゃなかったらいんだよ。それが理由で、この試合の2年後に34歳で引退してしまっているんだ」
探偵「呼吸がちゃんとできない状態で試合を!?そんなハンデがあったんですか・・・」
20分09秒 映像が変わり、グランドから。ステッカー、バックからコントロール
探偵「ステッカーはキャドックの足のつま先を持ったり、体を揺らしたりしていますね」
先輩「これもさっきの腕取りと同じく胴体へ自分の足を入れるためのものかもしれない。完全にキャドックは制圧されているな」
探偵「さっきの話を聞いたらキャドックにがんばってほしくてたまらなくなりましたよ。キャドック、がんばってくれー!!」
20分23秒 映像変わってステッカーがサイドヘッドロック?
探偵「先輩、これはヘッドロックでは!?」
先輩「見えずらいが、そうだな・・・おそらく首を絞めているのではないと思う。ステッカーは腰を上げて締め上げているね。これはキツイよ」
探偵「あ、でも自ら外していきましたね」
先輩「しかし、外した途端相手にバックを取られないように振り向いている。もしかすると外れそうになったので自ら外し態勢を取ったのかもしれないな」
20分45秒 映像換わりグランドから。ステッカーがバックから攻める
探偵「先ほどのように腕を取っていますね。体が浮いてスッテカーの左足が入りそうですよ!!」
先輩「これは、ああでも抜けた!!キャドックが前傾で脱出した。ステッカーがちょっと前に乗ってしまった態勢を見逃さなかったな」
20分50秒 脱出したキャドックは向き合おうとするスッテカーに対し足を取りバックに回る。目まぐるしい攻防
探偵「あっ!!」
探偵「キャドックがやっとバックを取りましたね!!」
先輩「しかしキャドックはここからだ。どうするか・・・」
探偵「キャドックが乗りましたよ!!」
先輩「さあどうする!?」
探偵「うーん、攻めあぐんでいる感じですね・・・」
先輩「このチャンス、何かほしいところだが・・・」
21分49秒 スッテカーがスイッチし形勢逆転
探偵「先輩、これがスイッチですか!!」
先輩「ああ、これもスイッチだね。それにしてもステッカーの回転が早い」
探偵「しかしステッカーは横についたままですね?どうしたのでしょうか?」
先輩「映像からは見えないがキャドックが足をフックしていて上に来させないようにしているんだ。地味に見えるが巧妙な攻防だよ」
22分13秒 ポジションが取れないスッテカーは反転して戻り、スタンドへ。映像換わり、ステッカーがスタンドでバックポジション。ここから右足を掛けながらのテイクダウン。ローリングしてベタになる
探偵「またもステッカーがバックを取りましたね」
先輩「グランドに持っていき、スッテカーはここからまた上下と攻めていくだろう。キャドックはもはや成す術なしか・・・」
22分40秒 ステッカー、ボディシザースを狙いながら上半身をネルソン(に見える)で返しフォールを狙う
探偵「スッテカーが完全に乗っています」
先輩「ああ、完全にステッカーがホールドしている。これは・・・」
探偵「あ、キャドックが跳ね上げ返しました!!でも、ああっ、またすぐバックを取られてしまいましたね」
先輩「うん。ここから、またしてもスッテカーの得意な攻めだ。キャドックはなんとか凌いでいるが、これは時間の問題かもしれないな・・・」
23分35秒 スッテカーの左足がキャドックの胴に回る
探偵「キャドックの体を揺らし、反転させながら徐々に足を深く入れていきました。とうとうスッテカーの足がキャドックの胴体に回りましたよ!!ボディシザースですね!!」
先輩「ああ。バックから右ヒザを相手の右側に置き、腕を取りながら胴体を浮かせ、相手を揺らし反転させながら左足を入れていく・・・これが胴締めの鬼といわれたジョー・スッテカーのボディシザースの入り方だったんだ。圧巻だ・・・」
24分20秒 ステッカーがキャドックをフォール
探偵「ついにカウントが入ったようですね!!」
先輩「ああ。映像では見づらいが、ボディシザースから反転させて、最後はステッカーの練習風景にもあったこの形に持っていってのフォール
で、まちがいないだろう」
探偵「そうですね、これですね!!」
先輩「それにレフリーが両肩を確認してフォールを取った。カウントはスリーでなくワンだったんだ。現在のレスリングと同じフォールの取り方だったんだなぁ」
探偵「でも先輩、ステッカーの得意技のボディシザースは、ボクはギブアップを取るものだとばかり思っていましたが・・・」
先輩「うん。試合をじっくり見て思ったんだが、おそらくステッカーはボディシザースでギブアップを取るのではなく、ボディシザースを決めながら腕を使い、反転させながらネルソンでフォールに持っていくというのが得意だったんじゃないかなと・・・ボディシザースは日本レスリング界の名選手、笹原正三が開発した"股裂き"に近いフォール技だったんじゃないだろうか」
探偵「その強烈な締めを利して、実戦では確実にフォール勝ちするための手段としてボディシザースを使っていた、ということなんですかね」
先輩「うん。だと思うなぁ。それにしても奥が深い、本当に奥が深い名勝負だったなぁ」
探偵「そしてThe Winner with the Winning Smile.勝者は勝利の笑顔、かぁ・・・」
探偵「ステッカーの笑顔、いいですね」
先輩「ああ。だからこそ悲しい・・・」
探偵「え!?」
先輩「ステッカーはこのあと引退を表明するんだが、翌年プロモーターに説得され復帰するんだ」
探偵「それは先に話していたルイスとの試合がドル箱だったから・・・ですか」
先輩「そう。キャドック戦で燃え尽きたステッカーにとって、このときプロレスへの熱意はもう消えかけていた。しかし押しに負けてしまったんだろう。結局1925年5月に世界王者に返り咲くとルイスとの戦いを軸に1928年2月まで約3年、防衛し続けた。その後タイトルを失い引退すると、ここから農業へ戻るが1929年の大恐慌で自身の農園が破綻してしまい、やむなくプロレスへ復帰。そして5年後、1934年に41歳で引退し兄の会社経営を手伝っていたが・・・43歳で統合失調症となり、ステッカーは80歳で亡くなるまで施設で過ごすことになるんだ」
探偵「そんな・・・」
先輩「ヒーローの末路は、なんでいつもこうなんだろうな・・・」
探偵「先輩、この試合が行われた1920年1月30日から今年でちょうど100年目になります。素晴らしい試合を残してくれた時代の英雄。せめてボクらだけでも・・・たまに思い出して供養しましょうよ」
先輩「そうだな。時間を超えて素晴らしい戦いを見せてくれた名レスラーに感謝を込めてな・・・」
プロレス研究所~MSGとプロレス その4 ① 3代目マディソンの時代 1925~1968年~へ続きます。