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Channel: 団塊Jrのプロレスファン列伝
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プロレス名勝負伝~ジョー・ステッカーvsアール・キャドック~パート1

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所長「1920年1月30日・・・おそらく現存する世界タイトル戦では最古のものだと思うわ。まだテレビはない時代だったから、記録映画として残されたんだと思う」

探偵「先輩、見てみましょう!!」

先輩「ああ!!」



先輩「まず最初のは題だな。上からThe Pioneer Film Corp・・・パイオニア フィルム コープでまちがいないだろう。これは映像の会社の名前なんだと思う」

探偵「次の段は、これは残念ながら読めませんね。pr・・・・ni・?presents、プレゼンツでしょうか?」

先輩「多分ね。そのあとはTHE WORLD & CHAMPIONSHIP WRESTLING MATCH。beiw・・・n?わからないな。しかしそのあとは
JOE STECHER and EARL CADDOCK、ジョー・ステッカーとアール・キャドックだな」


探偵「パイオニア フィルム コーポレーション。調べれば、こちらも歴史アリそうですね」

先輩「そうだな。とりあえずわかっているのは、このパイオニアの撮影監督であったフリーマン・ハリソン・オーウェンズによって撮影されたということだ」

探偵「始まりました。これは・・・試合前の様子から入っていますね」

先輩「ああ。向かってきて帽子を脱いだ、これがアール・キャドックだ」


探偵「本当だ。髪型や輪郭が同じですね」

アール・キャドック

先輩「アール・キャドックは1889年アイオワ州出身。フリースタイルのレスリングで1909年、アイオワ州ミドル級王者で1914年にはAAU全米選手権ライトヘビー級で王者になっている。プロ入り時期は不明だが1917年4月9日にジョー・ステッカーと統一世界ヘビー級王座をかけて戦い、タイトルを奪っているんだ」

探偵「ということは、ステッカーにとってこの試合はリベンジマッチだったんですか」

先輩「うん。このふたりの戦いが第1次世界大戦前の最後の統一世界ヘビー級王座のタイトル戦となり、この試合後にキャドックは陸軍、ステッカーは海軍に従軍することになったから、しばらく戦いは行われなかったんだ。その後、大戦が終わり3年が経って、ようやく再戦が行われたと・・・その戦いがこれだったというわけだ」

※第一次世界大戦が開戦したのは1914年ですが、アメリカが大戦に参戦したのは1917年からなので、大戦前の最後のタイトル戦ということになります

探偵「あ、走ってくる方、これがステッカー!?」


先輩「顔がよく見えないが、こちらはステッカーでまちがいないだろう」

ジョー・ステッカー

探偵「先輩、見てください!!マディソンですよ!!」

先輩「本当だ。1920年のマディソンだ。なんてすごい映像だ・・・」



探偵「前回載せた2代目マディソンはイラストだったからわからなかったけど、実際は白っぽい色だったんだ。そして、イラストで見るより大きさが伝わってきますね」

先輩「そうだなぁ・・・2代目マディソンの映像としては、おそらくこれが最古のものだろうな」

探偵「あっ、掲示板でしょうか!?対戦が書いてありますね」


先輩「ああ、現在のように大会を知らせる大きな掲示もされていたんたね。上から

"MAD,SQ GARDEN(マディソン・スクエア・ガーデン)"
"CADDOCK(キャドック)"
"STECHER(ステッカー)"

とハッキリと読める」

探偵「会場内も映ってますね。トップハット姿の男性ばかりです。観客の人数、すごいですね」


先輩「そうだな。このときは通常の観客ももちろんいたんだけど、どうやらステッカーとキャドックが属していた元・陸軍と元・海軍の同志も、それぞれ観に来ていたようだからな」

探偵「先輩、これは!?」


先輩「これは・・・レフリーが元・軽量級のチャンピオン、ジョージ・ボスナーとあるな」

探偵「ジョージ・ボスナー?」


先輩「ああ。まったく誰なんだかわからないけど、そう書いてある。きっと有名なレスラーだった人なんだろう」

探偵「入場して、リングインしました。ガウンなんですね」


先輩「ゴッチとハッケンシュミットもガウン姿が残っているが、これもプロレスの伝統、名残りなんだろうな」

2分39秒 試合開始(以降表示します分数表示は動画全体の経過時間です)


探偵「先輩、試合が始まりました。握手したように見えましたが、すぐ組みましたね」

先輩「ああ。柔道が必ず礼から始まるように、レスリングは必ず握手から始まるんだ。だから、やはり当時のプロレスはレスリングの試合に近かったんだろう。しかし第一印象、構えや体勢はフリースタイルともグレコローマンスタイルとも言えない感じがするなぁ」

探偵「それは・・・?」

先輩「うん。フリースタイルだと相手の足を取る動きが主体となるから腰を引いて頭を低くする形・・・もう少し前傾になり低い構えになるんだよ。足を取らせないで取れる態勢って言うのかな。だから、お互いの足はもうちょい遠ざかる形になる。これはそのあたりがちょっとちがうかな」

探偵「なるほど」

先輩「逆にグレコローマンスタイルだと下半身への直接攻撃がルール上できないから上半身を使い有利に組めるよう、相手と接近するような動きになる。だから状態、構えは上がって間合いはフリースタイルより近くなるんだ。結果、足は近くなるんだよ。でも、この場合は似てはいてもグレコローマンスタイルともまたちがうなぁ」

探偵「う~ん」

先輩「ただ、おれはカラー・アンド・エルボーやキャッチの試合、それらの動いている映像を一度も見たことがないから・・・もしかするとこれは、そっちのスタイルの構えや姿勢が影響を与えているのかもしれないね」

探偵「なるほどなぁ~」

3分43秒 キャドックがサイドからステッカーの足を取り、すぐさまバックに回る



探偵「あ、キャドックがバックに回りましたね」

先輩「うまい。相手の体を振ってから左腕を相手の左足の内側に入れてヒザの裏に掛け、右腕を背後に回して体重を乗せて前に倒した。こういうテクニックもそうだが、キャドックは常に右半身で構えて動いているから・・・実績どおり、フリースタイルのレスリングがベースのようだね」

探偵「どういうことですか?」

先輩「近代のレスリングは利き手の方を前に出す、つまり右利きなら右半身に構えるのが基本なんだ。で、前傾的な構えで重心移動を利して攻めや受けの動きに応じていくというね、簡単に説明するとそんな感じなんだ。さっき試合で構えは独特という話をしたけど、そんな中においてキャドックの動きは現在でも見られる、そういうフリースタイルの技術が所々で見られるというわけさ」

探偵「なるほど。キャドックはバックボーンのフリースタイル・レスリングの技術を軸に試合しているということですね。そう見るとステッカーはキャドックとは対照に左半身、逆ということになりますが、ステッカーはレスリングにおいてサウスポーだったということでしょうか?」

先輩「そこは実はポイントなんだよ。実際レスリングにもサウスポーはあるし、藤田和之や吉田沙保里のように右利きでもサウスポーにする選手もいるんだ。柔道やボクシングと同じく左は有利になる点が多いからね」

探偵「なるほど」

先輩「その辺りから推測してどうかと言えば、ステッカーのはレスリングのサウスポー、左構えともちがうように見える。左半身で、左腕を相手の首にしっかり掛けて右腕は相手のヒジあたりに置いている。流れの中でなく、初めからこれで組んでいった。単にこれを見て、何か連想できるものはある?」

探偵「プロレスの・・・ロックアップの形!?」

先輩「うん。レスリングをはじめ組系格闘技は普通、さっき説明したように利き手の方を前に出して構えるのが基本なんだ。つまり右半身がほとんどなんだよ。しかし組系格闘技において基本の構えが唯一左半身なのがプロレスなんだ」

探偵「確かにステッカーの組んだところの姿は現在のプロレスと比べても、あまり違和感がない気がします。ということはステッカーの構えはプロレスの源流ということに!?」

先輩「フリースタイルのレスリングが世に現れたのは1904年のアメリカからと言われている。つまり最初に紹介したウィリアム・マルドゥーンの時代は、まだフリースタイルがなかったんだ。だからグレコローマン、カラー・アンド・エルボー、キャッチが同じスタイル同士で試合したり、ミックスルールで試合したりで行われてきて・・・そして、やがてルールがまとまり出して、ひとつのものとなっていった流れがある。ということはステッカーのそれはカラー・アンド・エルボーやキャッチの名残りを持つ構え、現在のプロレスの原型なのかもしれないね」

4分32秒 キャドック、スタンドで足払い


探偵「あ!!キャドックが足払いのようなことをしましたよ」

先輩「これは驚いた。この時代に、というか外国人でレスリングで足払いを使う人がいたとは・・・」

探偵「珍しいんですか?」

先輩「ああ。日本人でも柔道上がりのレスリング選手とか、重い級とかくらい・・・いや、今はもうやる人はほとんどいないんじゃないだろうか?これもカラー・アンド・エルボーやキャッチの名残りなのかなぁ?興味深いシーンだ」

4分54秒 キャドックが足を取りバックに回る


探偵「キャドックがまたバックに回りましたね」

先輩「このあたりは、やっぱりフリースタイルレスリングの動きだね。それにしてもキャドックは動作が早い。かなり瞬発力があった選手だったんだと思う。しかし、ここまではいいんだけど、ここからなんだよ。先ほどもそうだが、キャドックはバックに回ったあとの、ここからがないんだよなぁ・・・」

探偵「確かにここからは失速しますね」

先輩「しかも映像を見てわかるように左脇に着いて、左腕を取りたいのか・・・左後方から何かを狙っているように見えるんだが、左に着くがあまり相手の背中をガラ空きにさせてしまっている。つまりグランドに持っていきながも、まったく相手を制圧してないんだよ。だからステッカーに逃げられてしまうんだ」

探偵「なるほど・・・キャドックは左から腕を取るか、ヒジ関節を狙っているんでしょうか?」

先輩「わからないなぁ・・・でも、普通バックから腕を取るにしても、完全にバックを取り相手を制圧してからやるもんなんだが・・・このバックからのキャドックの狙いがなんなのか、ちょっと謎だなぁ」

5分33秒 ステッカーがスタンドの片足タックルで足を取りテイクダウン。バックから左足をフックしようとしている


探偵「先輩、このステッカーのタックルはどうですか?」

先輩「このステッカーの片足タックルは低い位置から飛び込むものではなく、スタンドで相手の足を引っかけるようにして取るものだ。高いし射程距離は短いから切られる場合が多いが、切られてもすぐ体勢が整えられるから不利になるリスクは低いものだね」


探偵「なるほど。そしてここからテイクダウンを奪ったあと今度はステッカーがバックを取りましたが、先輩、さっきのキャドックとはちがい、ステッカーは完全に背後から制圧していますね」

先輩「うん。得意のボディシザースを狙っているというのもあると思うけど、バックを取ったら、まずこれが基本だね」

探偵「6分22秒、うーん、このあたりからは映像が悪く見えなくなってしまいますね」

探偵「ざっと100年前の映像だから見えなくなるところもあるんだろうな。こればっかりはどうしようもないなぁ」

8分10秒 キャドックの正面タックル。テイクダウンしバックに回る


先輩「速い!!」


探偵「すごい!!ステッカー、あっという間に倒されてしまいましたね」

先輩「ああ、現在でも、これだけ速いスピードで正面タックル入れる選手はそういないよ。キャドックの瞬発力は唯一無二と言っていい。それに入るタイミングだ。タックルにいく予兆をまったく見せず入ったからステッカーがカウンターできなかったんだ」

探偵「予想できないタイミングでとんでもなく速く入られたから、ステッカーにしたら「!?」という感じだったんでしょうね。ですがキャドック、バックを取りましたが・・・やはりそのあとがない?」

先輩「そうなんだよ。あれだけのタックルを持っていながら、テイクダウンしたあとグランドにいくと攻めあぐんでしまうんだ。なんでかなぁ?もったいない」

探偵「と・・・また映像が悪くなりましたね。グランドのようですが、何をしているのかはわからないですね」

9分49秒 このあたりからステッカーがスタンドのままバックを取っている、グランドに持って行くが立ち上がられる、スタンドでの片足タックルの状態からステッカーが足を使い後ろに倒す、という様子が断片的に映る



探偵「先輩、ここはお互いに目まぐるしい攻防、見応えありますね!!」

先輩「ああ、このあたりはまるっきりレスリングの動きと言っていい展開だ。中でも・・・ここ、見てごらん。ステッカーの片足タックルに対し、キャドックは足を取られながらもステッカーの股に足を入れているんだ。わかるかい?」


探偵「本当だ。キャドックの足がスッテカーの股の間に見えますね」

先輩「実は、こうするとテイクダウンが取りづらいんだよ」

探偵「そうなんですか」

先輩「見た目だとキャドックの軸足にステッカーが左足かけて倒せるんじゃ?と思うかもしれないが、こうされるとステッカーがひとつ踏み込んでもキャドックが同じだけ下がってしまいコントロールできないんだ。股に足が入っているから足を横や上にも動かせない。言ってみればキャドックの股関節から膝までの大腿骨が、つっかえ棒になるようなイメージかな」


探偵「へぇ・・・ではテイクダウンするためには!?」

先輩「この足を股から出すんだ。そうすればつっかえ棒、つまり取っている足を上げたり横に動かしたりというコントロールができるようになるから軸足を刈って崩すなどの動きが可能になるんだよ。映像を見ていると足が股から外れたあとステッカーがコントロールしキャドックを後ろに倒しているのがわかるだろう」



探偵「なるほど・・・確かに足が股から外れたあとすぐ倒していますね。でも先輩、ここから・・・先ほどから見ていて疑問に思ったんですが、倒された方は必ずパーテールポジション(四つんばい)か、うつ伏せになっているじゃないですか?」

先輩「そうだな」

探偵「でも、倒されたからといって必ずパーテルポジションや、うつ伏せになる必要はあるんでしょうか?背中を着いてのグランドの展開・・・たとえば体を流してグランドに引き込むとか、猪木さんがペールワンとやったときのように下から関節を取るとか、そういう形に持って行ってもいいんじゃないかと思うんですが、この試合では見られません。このときは、そういった技術がなかったのでしょうか?」

先輩「いや、技術は存在していたはずだよ。エド"ストラングラー"ルイスの書物からも、そういったシーンが見られるからね」

ルイスの下からの関節技

先輩「しかし、ここでそうしなかったのには、なによりこうしなければならなかった理由があったからだと思うんだ」

探偵「それは!?」

先輩「フォールカウントがシビアだったんじゃないだろうか?」

探偵「フォール・・・」

先輩「前田光世って知ってるか?」

探偵「え!?ああ、コンデ・コマと呼ばれた柔道家で、ブラジリアン柔術の父とも言われた!?」

先輩「そう。異種格闘技戦を含め生涯で2000戦試合をも行い、無類の強さで勝ち続けた伝説の柔道家だ。その前田光世がアメリカに渡ったときレスリングと戦い、下から十字締めをきめながらも負けてしまった試合が唯一あるというんだが・・・なんだかわかるかい?」

探偵「まさか、フォールカウントが入ってしまったと!?」

先輩「そう。前田光世は下から、今でいうガードポジションの状態から十字締めをした。柔道なら抑え込みにはならない形にして有効な攻めになるが、レスリングでこの形は即フォールになる。そのためフォール負けしてしまったというわけだ」

探偵「へえ・・・」

先輩「渡米したばかりで、まだレスリングルールを把握してなかったから、という記述もあったりするけど、そもそも前田光世は端っからレスリングルールで対決したわけじゃないし、相手も柔道ルールで対決したわけじゃないから、その結果はどうなのか?ってところではあるんだけどね・・・まあ話が反れちゃうんでここで話を戻すけど、とにかくシビアなフォールがあるルールの試合では、絶対やっちゃダメな体勢があるということさ」

探偵「なるほど・・・」

先輩「おそらくこの時代のプロレスは現在のレスリングのようにフォールカウントがワンだったんじゃないかな?」

探偵「だから背中を着けるグランドの行為を一切許さず、レスリング的な試合となっているわけですね」

先輩「おそらくね」

10分50秒 ステッカーはバックからジワジワとボディシザースを狙う


探偵「うーん、キャドックと比べると、やはりステッカーはバックを取ったあとの攻めが確固たるものですね」

先輩「ああ、しっかりとバックを取り攻めているね。それに得意技のボディシザースだが、入り方を見る限り、スッテカーは右ヒザを相手の右に置き左足をボディに入れていくという入り方が得意だったようだ」

探偵「それにしても先輩。ここまでの流れ、本当にレスリング的な攻防ばかりですね」

先輩「ああ、打撃はおろか、関節技へ行くような様子もない。本当にレスリング的だ。この時代のプロレスはポイント制を無くしたフォール決着のみのレスリングって感じなのかな・・・」

11分53秒 キャドック回避。立ち上がる

12分00秒くらいから、ステッカーが片足タックルに取られた状態から左腕を背中越しに回しスタンドのままキャドックの腕を取りに行く

先輩「こ、これは・・・映像を戻してくれ」

探偵「はい」

先輩「見てくれ。まずはキャドックがステッカーの左足を取っている」


探偵「はい。これはこれまでにも何度か見られた体勢ですね」

先輩「うん。だが、このあとステッカーが左足は取られたまま、右手でキャドックの左手を持って切っている。わかるか?」


探偵「はい。ステッカーの右腕とキャドックの左腕が繋がってるのがわかります」

先輩「そのあと、キャドックの右腕を抱えていたステッカーが、左腕をキャドックの背中越しに素早く回しているんだ。この黄色いラインがスッテカーの左腕だ」


探偵「一瞬で回しましたね」

先輩「そして左足を切り状態を起こし、ステッカーは腕を取ったまま足払いをした」


探偵「本当だ。引っ掛けるようにして足を払いに行ってます」

先輩「そこからステッカーは腕を上げようとしている。対してキャドックはそうさせないようにしている。しかし・・・」


探偵「あ・・・」



探偵「先輩、これは!?」

パート2へ続きます。


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