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Channel: 団塊Jrのプロレスファン列伝
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ある夏の日の思い出

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どうも!!流星仮面二世です!!

気がつけば6月も終盤に差し掛かり、また暑い暑い日々を過ごさなければならない季節も間近となってきました。

そんなこの時期。会社で仕事をしていての、ちょっと一息というとき・・・梅雨空の合間、青い空に映える真っ白な雲を眺めると、ふと、かつての暑い日々の仕事での思い出が頭を過ります。そう、あの日は、暑かったっけなぁ・・・

今から約10年前。ボクは不景気の煽りで長年いた会社を退職し、紆余曲折を経て現在の会社にたどり着いたわけなんですが・・・その間となった約10ヶ月間は"トラックでの配送"を仕事としていました。

その仕事は住宅建材を新築の建設現場にトラックで配送し搬入する、という言葉にすると単純明快なものでしたが、これがとにかく大変でした。

配送ではシステムバス(一般家庭などの戸建住宅のお風呂)、ユニットバス(アパートなどの集合住宅のお風呂)、システムキッチン、そして各種建材を扱っていましたが、荷は基本、手積み手降ろし。積込みはバスとキッチンが前日の夕方からで、建材が当日の朝の3時、4時からというものでした。配送エリアは関東一円。朝早く始まり、そして遅くに終わりまた明日という無限ループがキッチリ1週間。日曜日は休みですが、結局のところ月曜日の朝が早いため休みとは言いがたい、それは気の休まるときはない地獄のローテーションでした。

それは、そんな仕事をして半年が過ぎた7月のことでした。この2010年の夏は当時の観測史上で最高となる猛暑の年にして30年に一度の異常気象といわれたときだったので、とにかく暑い日が続いた時期でした。そんなある日の仕事は、ユニットバスを某県の新築中アパートへ配送、搬入する仕事でした。

普段は単独での配送でしたのでバスの搬入は1日でやっても二戸でしたが、このアパートは大手建築業社が手掛ける3階建ての大型なものだったので、ユニットバスの数も相当なものでした。なのでこの日は自分の会社と他社の運送屋さん2社と分割しての配送になりました。

当日、朝早くに出発。現地に向かい、まずは広くて家が少ない場所を見つけてトラックを止め、搬入場所を探します。

というのも・・・ここでちょっと話は脱線しますが、実は新興住宅などで作られる新築、いわゆる"新しい家"は、新しいあまり地図やナビに住所が載っていないんです。つまり、場所がわからないんですよ。でも、だからって会社に問い合わせても「探して行け」で、指定時間必着だ!!絶対に遅れるなよ~!!なんですよ。おかしいでしょ~?配送が仕事なのに配送先がわからない。のに、行け~。ホント真っ黒なんです。

で、どうしましょう?となります。こういうときは昔からある近くの住所を検索し、まずそこに行くんですね。で、現地を歩きながら目で新築中の家を探すんです。新築中の家を探し家の前に来ると、家の前には建築基準法ナントカとか建築許可ナントカとかが表記されている看板が必ずあり、そこに"◯◯◯◯様邸"と書いてあるので、そこで初めて「ここか~」と、まあなるわけなんです。搬入は施工の開始に合わせるので、だいたい朝の8時から8時半に行われます。なので、もちろんそれ以前の時間に探し始めます。通勤、通学の時間帯は身動きが取れませんので、こうして朝の5時半か6時には見つけておく感じなんですね。

しかしこの新しい住所というのは本当にクセモノで・・・だいたい家というのは番地で並んでたり、1ヶ所にまとまってたりで建っているものんですが、新しい住所になるとまっっったく、見当ちがいな別の場所にあったりもするんです。これに当たっちゃうと、まぁ~見つからないので大変です。

最後にトラックの待機場所です。トラックは2~3.5トン車なので、そこまで大きくはありません。しかし自動車に比べればはるかに大きいので、現地で搬入するまでの間、停めておく場所が行く先々にいつもあるとは限らないんです。田舎はこのあたりの心配はないんですが、東京区内は、まずないですね~。主道路以外は、とにかく狭いんです。ちょっとだけ広い裏の道路や小さな公園周りなどがあれば横付けもできいいんですが、だからと言って堂々はいられません。場合によっては、誰が停めていいと言った!!どこの運送屋だ!!道を塞ぐな!!どけ!!なんて声がすぐに飛んできます。さらに停めれていたとしても、子供が寝てるんで静かにしてください!!家が揺れるんですよ!!という感じになるので、暑くても寒くてもエンジン音が響くのでエンジンはかけられないんです。まぁ~、けちょんけちょんなんですよ。

朝の通勤時、普段は見かけないトラックが荷を積んだ状態で道端に停車しているときがあります。なんでこんな車の通りが多いとこに停まってんだ!?こんな歩行者が多いとこに停めてジャマだなぁ~。迷惑だと思わないのかなぁ!?本当に、まったくもってその通りです。ボクも、朝からこんなとこ停めやがって~ジャマだよ~と思います。でも、あの人たちが停車している裏には、こういうドラマがあるんです。あの人たちがいなければ新築やリフォームは成り立たないんですよ。え~、ということで今後そういうシーンを見かけましたらですね、少しでもですね、あ、このトラックはそういう理由で停まっているんだなと、お気持ちわかっていただければなぁ~と、思う次第です。ということで長くなりましたが、今日は最後までありがとうございました。

いや!!まだです!!

話を戻しまして・・・というわけで、この日は少し離れてはいますがトラックを停める場所に恵まれたので、そこで搬入指示があるまで待機します。やがて他社の運送屋さんも来たので場所や搬入口、搬入順を話し合いました。そして、その後しばしの雑談タイムとなりました。

この日はトラック4台口。1階7棟、3階で21棟。これを手作業ですべて搬入するのは、かなりの仕事量、重労働です。大変だなぁ~と話していると、ある運転手が苦笑いしながら言いました。

「しかも今日は◯◯住設だってよ・・・」

その言葉で周囲は重い空気に包まれました。

今日の現場の搬入の指示をする施工業者、いわゆる施工屋の◯◯住設は、この某県での配送では有名な4人組。スーパー高圧的態度の上から目線で迫っては問答無用。それこそ「おはようございます」という挨拶にすら血相変えて怒り怒鳴りだすくらいなので、通常の会話すら成り立たない人たちです。あまりに無茶させるので運送会社から仕事を断られた過去もしばしば。それは有刺鉄線でも究極とされるカミソリワイヤーを人間の形にしたような一味でした。


これが人の形をしているんだから始末が悪い

「今日はただでさえ暑いのに、キツい仕事な上に最悪な施工屋相手とはなぁ~」

こうして憂鬱な待ち時間を過ごしていると、やがて若いふたりの男が現れました。カミソリワイヤーでしょうか・・・いや、あの施工屋ではありません。それは若いふたりの男でした。

「降ろし屋で来ました。よろしくお願いします」

降ろし屋とは、こうした物量が多い現場のとき臨時に雇われる、荷降ろしと搬入だけを行う日雇いのアルバイトのことです。手配先のちがいからか?単に知らせてもらえないだけなのか・・・運転手に降ろし屋が来る等の事前連絡はまず来ないので、現地で初めて知るのがほとんどです。そうか、降ろし屋が来たんじゃ、助かるなぁ~。と、みんなの顔にほんの少しだけ安堵感が漂います。が、気になったのは、その降ろし屋のふたりのうちのひとりの体つきでした。

身長は170センチくらいですが、シャツから半分だけ覗く丸々とした上腕二頭筋に、発達した首周りの筋肉、胸鎖乳突筋、僧帽筋。そして潰れた耳。その表情は、にこやかで爽やかですが、ただならぬオーラが漂っていました。

「いい体してるねぇ。なんかやってたの?」

というある運転手の問いかけに

「ちょっと、格闘技を・・・」

と照れ笑う男。そしてボクと目が合い、男の目線はボクの潰れている耳に向けられました。いや、これはちがうんです。CGです。許してください、すいません・・・と心で呟くと

「入れるぞー!!トラックをつけろー!!」

と遠くからカミソリワイヤーの声が響きました。

こうして通勤、通学もひと段落した道路の前の建設中アパートにトラックが並ぶと搬入が始まりました。

おまえはこっちだ!!◯◯を先に降ろせ!!通路を塞ぐな!!なにやってんだー!!こんな声が飛び交う中、みんな一心不乱に搬入していきます。

しかし、この仕事は単に設置場所にドサドサ置いていけばいいという、いわゆる力だけあればできるというものではありません。搬入するものは組み立て前のユニットバス、お風呂なんです。だからキズをつけてはダメなんです。特に浴槽と壁は絶対です。

だいたいのものはひとりで運べますが、浴槽のみふたり作業です。浴槽は慎重に声を掛け合い、持ち上げて階段を登ります。ひとりは後ろ向きなので躓いたら一巻の終わり。ゆっくりと進みます。踊り場でのターンは久々の平らな面。一旦降ろし一息入れたいところですが、そんなスペースはありませんし、あとから次の荷が来るので進まなければなりません。一度始まったら搬入する部屋までノンストップで向かうしかないのです。

階段を上がり室内に入ると、建設中とはいえ、もう柱や仕切りで形はできているのでここからも一筋縄ではいきません。間取りに応じ、浴槽を縦にしたり横にしたり斜めにしたりして家の形に沿いながら浴室の位置へと進まなければならないのです。浴室は浴槽の向きも決まっているので、最後の最後にまちがうとやり直さなければならず、これも気にしなければなりません。力を維持しながら慎重に行います。でも、急がないとカミソリワイヤーの怒鳴り声が飛んできます。なかなかの地獄です。

しかし、そんな中で、まるでシャア専用ザクのように通常の人間の3割増しで動き回る男が・・・そう、それは格闘技の男でした。

「なんか、すげぇぞあいつ・・・」

静かにしてパワフル、そして丁寧でスピーディー。それは思わず我々の手も止まってしまうほどでした。この機動力・・・一体何者なんだ!?

こうしてやっとこ半分が終わると一旦休憩となりました。みんな尋常でない大汗をかき、息を切らし座り込んで飲み物を飲みます。中には完全な熱中症になり、動けなくなっている運転手もいました。

しかし

「みんな汗すごいですね。ゲリラ豪雨を受けたみたいですね~」

と、清々しく飲み物を飲みながら登場したのは、あの格闘技の男でした。な、なんという・・・この暑さの中、あれだけの力仕事をしておいて、いい運動した的な空気を醸し出すとは・・・これにはさすがのカミソリワイヤーも

「おまえは何かやってたのか?」

と、問います。

「ちょっと、格闘技を・・・」

と、相変わらず照れ笑い。きっと、行く先々でいつも聞かれるからなんだろうが、それにしても・・・スタミナもとんでもないこの男は一体!?

短い休憩が終わると後半戦が始まりました。気温はぐんぐん上がってきており、早く終わらせないと本当にヤバい状況になってきました。そんな中、あの格闘技の男が視界に入ってきました。みんなようやくやっているのに、最初のときからまったくペースが落ちていません。テキパキと搬入をこなしていきます。

やがて搬入も、ようやく底が見えてきました。残るは壁です。

壁は寸法が縦は2メートルくらい、横は80センチくらいでしょうか・・・重さこそ1枚10数キロなのですが、裏が石膏ボード、表が金属製パネルとなっている作りで、完成した際に人目に触れるこの金属製パネル面の品質がとにかく厳しい品物です。表面への干渉は絶対にNG。角の曲りや小さな擦り傷さえも許されないため最も気を使うところです。このため基本的には施工屋のみが運ぶことになっているくらいシビアで、本来は運転手は触るのもダメなんです。でも、おかまいなしにやらされてましたけど・・・

そんな壁をトラックの荷台上から出そうとしたそのときでした。やってきたのはあの格闘技の男でした。

「それ、やります。渡してください」

というので荷台上から1枚を引き出し、渡そうとしたそのときでした。

「いえ、4枚、大丈夫です!!」

4枚!?バカな!?壁は基本1枚づつで、一戸建てのときで一度にやっても2枚だ。それを今日のような階上げがあるときに一度に4枚とは無理というか、危ない。キズ発生のリスクだってあるし・・・

「下からだとさすがに持ち上げられませんが(トラックの)上から渡してもらえれば大丈夫です」

ニヤリとしながら見上げる格闘技の男の押しに負け、ボクもパワー全開で4枚を持ち上げ言われるように渡しました。格闘技の男は腕をいっぱいに広げ抱くように受けとると、そのまま歩きだし階段を上がって行きました。そしてそれを何往復もこなしました。こう言ってはなんですが、ボクも柔道、レスリングでは重い級だったので普通の人に比べれば多少力はある方ですし、ボクなんかよりもはるかにすごい、いろんなヤツも見てきました。しかしこれほどのパワーとバランス、スタミナを持った人間は、見たことがありません。

仕事を終え、帰るまでのつかの間。格闘技の男とふたりきりになりました。聞いておきたい。そう思い話しかけました。

「格闘技は一体、何を・・・!?」

きっと、ボクがそっち方面を好きなのを感じたんでしょう。格闘技の男は遠回りな説明は一切せずに言いました。

「おれ、実はパンクラスでやっているんですよ」

「パンクラス!!そうでしたか・・・どうりですごいと思いましたよ」

お互い次の仕事があるので1、2分だけ話をし、そしてお疲れ様でしたと帰っていきました。

帰り道、ハンドルを握りながら思い返します。パンクラスのすごさをこんな形で知ることになるとは夢にも思わなかったなぁ。やっぱりあそこはすごい。トータルで鍛え上げられているんだな。すげぇなぁ~。

しかしその半面、思いました。プロの格闘技で、ファイトマネーだけで食っていくのは至難だとは聞いていましたが、これが現実なんだなぁと・・・そう思いました。

あれから10年。あの男は、今はどうしているのかな?格闘技で食えるようになったかな?それともまだ、働きながら強さを夢を・・・追いかけているんだろうか?

10年かぁ・・・年が経つのは本当に早いなぁ・・・


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