Quantcast
Channel: 団塊Jrのプロレスファン列伝
Viewing all articles
Browse latest Browse all 312

ノスタルジア・メロディ 2

$
0
0
どうも!!流星仮面二世です!!

では2です。

それは中学生になりプロレスの入場テーマ曲のこともだいぶわかってきた3年初頭の頃でした。

ボクの住んでいる茨城県にあるつくば市の「筑波研究学園都市」は、かつてボクの実家と同じ郡でした。ここは母親の出身地ということもあり、幼き頃からよく訪れた慣れ親しんだ土地でした。
 
そんなつくば市、今でこそ日本中に知られるくらい発展しましたが、それはその発展初期の頃・・・今で言うと、タイガー・ジェット・シンのカレー屋Gunsと、プロレスもよく来ることでファンには馴染みになっているつくばカピオのちょうど中間くらいのところになるでしょうか?北大通りと松見通りの交差点にある松見タクシーの近く。そこには「キャラバン」というレコード店がありました。
 
当時、ボクはラジオはAM派でしたが兄はFM派で、その趣向はアイドルや歌謡曲は一切聴かず。洋楽や、今ではすっかり耳にしなくなった「ニューミュージック」がほとんどでした。
 
そのため、ちょっとその辺のレコード屋には売ってないマニアックなものを探すときは、このキャラバンへ足を運んでいたのです。その品揃えはもちろん、店長が、あらゆるジャンルの音楽にとにかく詳しかったからです。
 
この店長さんは女性で、年齢は当時30代後半くらいだったでしょうか?その容姿は体型こそ普通でしたが短い髪にメガネ顔で・・・ちょうど、ときのフィリピン共和国大統領だったコラソン・アキノを2500番の耐水ペーパーで仕上げたような感じの人でした。
 
「あそこはいろいろなのがあるからプロレスのもあるんじゃないか?」
 
その兄の言葉に、休みの日にさっそく足を運びました。
 
店に入り一目散にプロレスのレコードを探します。すると「スポーツ」と分類されたところに、それはありました。
 
「こ、これはぁ!!」
 
そこで最初に、アルバム2枚組でシングルも付いているという全日本プロレスの超豪華入場テーマ曲集「プロレス大全集」の洗礼を受けます。そして初めて見る「THE PRO-WRESTLING(ザ・プロレスリング)」のカセットテープでなく、レコード。しかも2(ツー)があり驚きは2倍でした。さらに追い討ちをかけるかのように、そこには「思わず感動!プロレスラー名セリフ集」に「第2回IWGPオフィシャルレコード」などの入場テーマ曲以外のレコードも軒を連ねていました。
 
こづかいは、ほぼプロレスにつぎ込んできた当時でしたが、さすがにそこは中学生。財源は豊富ではありませんでした。ということでとりあえず今日は1枚だけと、ダイナマイト・キッドとディック・マードックの入場テーマ曲があった「THE PRO-WRESTLING 2」を購入しました。
 
家に帰り、さっそく入場テーマに聴き入ります。このとき、待望はディック・マードックの入場テーマ曲でした。
 
そのイントロがかかれば
 
「さあ、軽快なテーマに乗せまして入ってまいりました、ディック・マードックであります。人間ビッグアップル、テキサス・スーパーロデオマシーンとも言われるディック・マードック。あのテキサス荒馬乗りテクニック、カーフ・ブランディングが怖い。ロングホーンをかざして~さあ今、さっそうとリングインであります」
 
と、古舘さんの入場実況が脳内変換され、思わずニンマリ。今でこそ「THE PRO-WRESTLING 2」でのディック・マードックの入場テーマの曲名がミス表記だったのは知れている話ですが、もちろん、そんなことは当時は知りません。
 
なので
 
「マードックのはレディ・ファンタジーっていうアメリカ民謡だったのか~。やっぱりあっちの民謡はキンカン民謡本舗でやるような民謡とはテンポがちがうんだな~!!」
 
と歓喜します。そして同時にあることが頭を過りました。
 
そういや・・・ブロディの入場テーマ曲、新日では歌も入っていて、まったくちがう曲になったので兄に聞いたらレッド・ツェッペリンというバンドの曲と言っていた。あれはブロディのために作られた曲だと思っていたら、ちがったんだ。マードックのも原曲があったんだ。レスラーの入場テーマ曲って、アイ・オブ・ザ・タイガーとかライディーンみたいに、そもそもある曲を使う場合もあったんだな。なるほどなぁ~!!
 
それを知ってから、ちょっとちがう視点でも音楽を認識するようになったため、キャラバンに行く回数は増えていきました。店に行き、プロレスのレコードを買うときは曲名を見て演奏者もチェックして・・・これは◯◯というバンドの曲なのかな?なんて、ちょっと考えたりして選んでいると、なんだかツウになったような気分で楽しかったのです。
 
そんな頃でした。いつも店内のスポーツのところに来る坊主頭のでっかい中学生は、店長のアキノ大統領にプロレスのレコードを買う人と認識されたか・・・ある日、店に行くとアキノ大統領はボクに
 
「長州のポスターがあるんですが、よろしかったらどうですか?あげますよ」
 
と声をかけてきたのです。
 
振り向き、アキノ大統領が指を指すその先を見ると、そこには丸められ立て掛けられた、他のポスターより倍は長い丈のものが一本、突き出ていました。
 
「ちょっと大きいんですけどね~」
 
そう言って引き出されるポスター。少しだけ広げ中を見せてもらうと、それは長州が藤波にサソリをかけていてサインもプリントされている、畳でいうとこの一畳半はありそうな巨大なものでした。
 
「(な、なんだこれ・・・?こんなの見たことないぞ!?)」
 
今に思えば、おそらくそれは過去に発売された長州のレコードとかビデオとかの予約特典だったのではないかなと思います。
 
しかし、当時は詳細はまったく不明。でも、とにかくプロレス関連のものがもらえる!!ということにうれしさが溢れ
 
「ありがとうございます!!いただきます!!」
 
と言い、大喜びで家に帰りました。
 
当時、床の間を流用して部屋としていたボクは、家に帰るとさっそくそのポスターを床の間に貼りました。そう、あまりに大きくて床の間にしか貼れなかったのです。しかしこれが見事にマッチし映えていました。
 
キャラバンに行くようになり、たくさんそろったレスラーの入場テーマ曲のレコード。それに今日はポスターまで貰ってしまった。部屋にデカデカと貼られた長州のポスターを眺めながらパワーホールを聴き、ボクはひとり心地よさに浸っていました。
 
しかし、そんな優越感とは裏腹に、ボクにはどうしても埋まらない心の隙間がありました。こうして入場テーマ曲がそろっていき、またいろいろなレコードが発売されていけど・・・どうしてもほしい!!そのレスラーの入場テーマ曲が手に入ることがなかったからです。
 
それはいかなるプロレスのレコードにも収録されることはありませんでした。ずっと探しているあのレスラーの入場テーマは、いまだに聴くことができていなかったのです。
 
そう、マスクド・スーパースターの入場テーマ曲です。
 
この頃になるとクラッシュギャルズの曲のヒットも影響しゴングなんかでもいろいろなレコードが紹介されるようになり、わずかながら情報は上がってはきました。


でもどのレコードの、どの収録曲を見てみてもマスクド・スーパースターの文字は見当たりませんでした。
 
そう現在なら、検索してなんの苦労もなくわかってしまうレスラーの入場テーマの曲名。でもこの時代はまったく調べようがありませんでした。プロレスのレコードになかったなら、それこそテレビからレスラーの入場に合わせ聴こえてくるだけ、のものでしかなかったのです。
 
曲名はおろか演奏者もわからない。一体どうすりゃいいんだ・・・これじゃ砂浜に撒かれたダイショーの味塩こしょうをして「まちがえることなく味塩こしょうだけをすべて回収しろ」と言われているようなもんじゃないか!!
 
まさに万事休すとなりましたが、追い込まれた中学生のボクは
 
「こうなったら・・・」
 
と、いよいよ最後の手段に打って出る決心をしました。
 
その日、ボクは意を決しキャラバンへ向かいました。そして向かえしは、いつものスポーツのところではなく、アキノ大統領でした。
 
いらっしゃいませ~。と、いつもの感じのアキノ大統領。そこにまさに仁王立ちしたボクは意を決します。
 
ボク「あの、すいません。曲を探してるんですが・・・」
 
アキノ大統領「はい。なんという曲ですか?」
 
ボク「あの~曲名はわからなくてですね・・・」
 
アキノ大統領「じゃ、なんというアーティストだかわかりますか?」
 
ボク「それもわからないんです・・・」
 
アキノ大統領「うーん。では何か他にわかることありますか?CMとかで流れてたとか」
 
ボク「え~・・・」

アキノ大統領「はい?」

ボク「ぇ~・・・」

アキノ大統領「?」

ボク「・・・パララッ、パラッパッパッパッパ、パラッパッパッパッパ♪という前奏で、サビがパラパパラパパーパラ、パラパッパーラ♪という曲なんですが!!!」
 
アキノ大統領「そ・・・うーん・・・」

ボク「・・・」

アキノ大統領「それはちょっと・・・わからないですねぇ・・・」
 
ボク「そうですよね・・・すいませんでした」
 
ほとんどの音楽を網羅しているアキノ大統領なら、わかるかもしれない。そう思い至ったボクのピープル・パワー革命ともいうべきアカペラ作戦は無惨にも砕け散りました。
 
しかし時間が経過するにつれ、後悔が襲いました。
 
「(なにをしてるんだろうおれは・・・店先でアカペラで曲を伝え、曲名を割り出そうなんて・・・)」
 
メロディをアカペラで伝えるという恥ずかしさと、アキノ大統領に迷惑をかけてしまったこと。そして曲をみつけられなかったという残念な気持ちが取り巻き、気がつくとボクの交感神経は決壊寸前になっていました。
 
それでもアキノ大統領の
 
「また何かわかったら、いらしてくださいね」
 
の言葉で救われ、ボクはその日以降も相変わらずプロレスの入場テーマ曲、それに斉藤由貴や吉川晃司の曲を買いにキャラバンに行き続けました。
 
やがて時代はレコードからCDへと移り始め、世のレコード店の多くにCDが現れると、みるみるうちにレコードは姿を消していき・・・キャラバンもいつしかCDショップへと変わっていきました。レコードがCDに変わってもアキノ大統領の豊富な知識は相変わらず発揮され続け、以前と変わらなく営業は続いていましたが、CDという特性の手軽さからレンタルショップが台頭すると、勢いも下降に入ってしまったのか・・・90年代半ばになるとキャラバンは閉店。その姿を消すこととなりました。
 
ネットを開けば簡単に聴けるようになったプロレスの入場テーマ曲。今では、それこそ一度しか流れなかったものや、こんなマニアックなレスラーの!?というものまで詳細に知ることができるようになりました。そして、それらを簡単に手に入れることができるようになりました。

事実、ボクがアカペラで挑んだマスクド・スーパースターの入場テーマ曲がメイナード・ファーガソン演奏のThe Fly(ザ・フライ)という題名だったと知ることができ、手に入れることができたのは世にネットが広まりつつあった30歳手前のことでした。こればかりはネットがなければ一生たどり着くことができなかったものだったかもしれません。そう考えると、それは本当にすごいことでした。

それから今日まで、何か欲しい入場テーマ曲があれば、こうしてネットで手に入れました。いいや、プロレスだけじゃありません。好きだったアイドル、夢中になった音楽、自分だけの思い出の曲など・・・それは様々なものを手に入れることができました。それらを探しているときは楽しく、見つけ手に入れたときは本当にうれしいものでした。

しかし、この繰り返しにボクはいつしか慣れてしまい、

「ネットで探せばすぐ見つかるし。いつでも買えるから、今じゃなくていいや」

と・・・そんな気持ちばかりになってしまって、大事なものを忘れてしまったような気がしました。

知りたいから調べ、欲しいから探し・・・そしてそこに行き、その時、必ず手に入れた。今そこにしかないから必死に、次なんてないから必死に手に入れた。それは「知っていても簡単には辿り着けなかったから」だったからです。

世の中がいくら便利になっていっても、忘れてはいけないことがある。そうだ、忘れないようにしよう。そう改めて思うのでした。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 312

Trending Articles