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Channel: 団塊Jrのプロレスファン列伝
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サイレント・グッバイ

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幼稚園の頃から付き合いのある幼馴染たち、いわゆる竹馬の友らと年に数回、飲み会をしている。


いろんな意味で男が薫る40代が5、6人で集まっては、昔話に花を咲かせるのだが・・・そのうちのひとり、かっちゃんが妙なことを言い出した。


「そういえばLINEに、“ハミン”って名前のが出てくるんだけど・・・誰だかわかんねーんだよ」


確かに同級生に、女性でひとりその名前の子がいたが・・・


「あれじゃね?同級の」


「あーいだっけな」


「いやでも、全然接点ねーんだよな・・・そもそも携番なんかわかんねぇはずだし・・・」


「そっかぁ・・・そういえばあの子って・・・どんな人だったっけか?」


「ああ顔は覚えてっけどな・・・わかんねぇな?高校ってどこ行ったんだっぺ?」


「わかんねぇなぁ・・・ていうか誰と仲良かったんだけ?」


「うーん・・・わかんねぇな・・・」


「うーん・・・」


みんな、幼稚園から中学まで一緒だったが、その風貌、容姿は思い出せてもどんな子だったのかはわからなかった。


当然、ボクもそうだった。そう、そうだった・・・ある一部分を除いては・・・


ボクはみんなが知らないハミンさんの知っている面が、実はあった・・・


そうだ、確かに中学校の同級生にハミンさんという女性がいた。


ハミンさんは懐かしく出会った同級生同士の話でも、名前すら上がることはないような存在の女性だ。どんな子と友達だったのか?勉強はできたのか?スポーツはできたのか?基より、どんな子だったのか・・・


もし、同級生をズラっと並べて、ひとりひとりにハミンさんのことを聞いていったとしたら、はたして何人が記憶しているだろうか?闇夜に烏、雪に鷺。魚の目に水見えず、人の目に空見えず・・・といっては失礼かもしれないが、まさにそんな感じの存在だったんだ。


そんなハミンさんだったから、本来ならばボクも記憶には残らないだろう存在だった。でも・・・ボクはある出来事から、この女性の記憶を現在にまで脳内にとどめてしまうことになる。


そう、それは中学生時代のある日のことだった。それは何年生のときだったか、どうしてそういう話になったのか?そのキッカケは謎、今となってはまったく思い出せないが・・・まず男子生徒と話すことなどありえないに等しいハミンさんがボクに放った一言は衝撃だった。


「デビル雅美ってかっこいいよねー」


で・・・でびる!?


その頃、ボクは休み時間になるといつも友達とプロレスの話をしたり、プロレスの技をかけたりしていたから・・・そのプロレスファンぶりは当時から有名だったから、そんなセンでそういう話になったのかもしれない。それにしてもだ・・・ハミンさんの口からデビル雅美の名が出てくるとは夢にも思わなかった。


デビル雅美。この名を聞いて知らないというプロレスファンはいないだろう。たとえ男子のプロレスにしか興味がないヤツだろうが一度はその名を耳にしたことはあるはずだ。


ボクらが中学校の頃というと、デビルはもうヒールではなくなっていた。正統派になり、ちょうどジャガー横田とタッグを組んでいたあたりだ。かつてはライバルとして鎬を削ったこのふたりのタッグは確かに強烈だった。ジャガー横田のテクニックと、正統派になったとはいえラフ・ファイトをやらせたら女子プロレス界で敵うものなどいないデビルのこのチームは、当時のクラッシュギャルズには高い壁となっていた。


ハミンさんはそのあたりを、静かではあるが熱心に話してきた。そう、確かにこの頃のデビルはすごかった。しかしボク的には、やっぱりデビルはヒールのイメージだ。紫をイメージカラーにして、手には木刀の、あのデビルが真のデビルだと思う。


団塊Jrのプロレスファン列伝
これだよね


まだ小学校の頃、毎週ではなかったが、日曜日の午後の時間帯になると全女の放送があって・・・よく家族で見ていたものだった。ビューティ・ペアがいなくなり、まだクラッシュギャルズは日の目を見せなかった、やや低迷していた時期・・・そんなときトップヒールとして全女を奮い立たせていたのがデビルだった。


デビルのファイトは凄まじかった。特に凄み・・・という点でいえば、女子プロレス発祥から現在までの長い時間を見てみても、いや今後100年間を見てもおそらく敵う人なんかいない。相手を痛めつけ、髪の毛を鷲掴みにし、目を見開きながら相手を見て


「コノヤロぉぉぉぉぉ~!!!!!」


しかしそれは見ている者を不快にするものではなかった。強さ・・・デビルから伝わってくるその凄みは、強さだったのだ。悪役なのに応援したくなる・・・当時はまだ小学生だったが、ボクにはそんな印象が強かった。


「デビルかぁ・・・いやぁ確かに今はあんな感じだけど、昔は池下ユミのブラック軍団にいてね、そのあとデビル軍団てのになって、このときのデビルがおれはよかったなぁ。今も帝王的な感じだけど、やっぱり木刀持ってやってた頃がおれは好きだったな~」


プロレスとなると相手がどんな人でも真剣にアツく語ってしまうボクは、ハミンさんにかつてのデビルの話をした。こうして、自分の中でまだ見ぬ強豪だったハミンさんと話す機会が、たまにではあるができていった。


そしてその日は・・・いつだったか?中2だっただろうか?まったく思い出せないが、その日、デビルの話をしていると


「会ってみたいなー」


とハミンさんが言った。


そうだよな・・・ここらは田舎だから、巡業は年に一回くらいしかこないんだよな・・・


「まだ生で見たことないんだ。おれは男の方しかないけど、生観戦はいいよー。近くにきたときにでも行ってみたらいいんじゃ?」


「でもなー。連れてってくれる人がいないからなぁー」


「あー・・・」


あ、ああ・・・


まだ経験の浅い当時のボクでも、それはわかった。そうか、本来ならここで


“じゃあ一緒に行くべよ!!”


ていうタイミングに間違いなかったんだ・・・

しかしおれには、そのセリフは言えなかった。なぜならそれは・・・




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