名レスラー伝~地獄の大悪党!!グレート東郷 その1 悪党創世記~ より続きです。 探偵「東郷の名がプロレス界で見られるようになり、記録も確認できるようになったのが1950年代からになります。そしてこの50年代こそ東郷にとって運命の年だったのではないかなと思うんです」 先輩「運命の年かぁ・・・」 探偵「まずその初期。東郷の未だ見ぬ故郷の日本で力道山がプロレスと出会い、レスラーとしてトレーニングを開始します」 先輩「相撲を廃業した力道山が酒場でケンカをしてしまうんだけど、そのケンカ相手がハロルド坂田というプロレスラーで・・・ケンカしたあとふたりは意気投合し、よかったらプロレスをやってみないか?と坂田が声をかけたのが力道山とプロレスの出会いだったんだよね」 探偵「そうです。で、1951年10月、力道山はプロレスの門をくぐりボビー・ブランズの下でトレーニングを開始。その後、1951年10月28日に両国メモリアルホールで師のボビー・ブランズと10分勝負を行ない引き分けします。そして1952年2月、力道山が渡米します。まだ日本プロレス設立前。プロレス修行のための海外遠征でした」 先輩「まずハワイ、そのあと6月に本土に行ったんだよね」 探偵「はい。この本土への力道山の遠征で、東郷は力道山をマネージメントしたようです。後に行動を共にし、お互いを親い信用し合い、日本のプロレスを作り上げたふたりが出会ったんですね。運命的な気がします」 先輩「この海外武者修行時代の力道山と東郷の関わりを記す具体的なものは現在確認できないが、当時無名だった力道山が本土入りし、いろいろなレスラーと試合ができたのは東郷の存在なしでは難しかったんじゃないのかなとおれは思うんだけど、どうなんだろうね?」 探偵「そうですね。力道山は本土入り前はハワイで約3ヵ月、試合をしています。このときは沖識名がトレーナーで、日本でコーチをしたボビー・ブランズもいましたから、そのあたりのラインでサンフランシスコに行き試合したのかもしれません。しかしロサンゼルスに転戦してからは東郷ラインはあったんじゃないでしょうかね」 先輩「うむ~・・・単純な疑問なんだけど、結局ふたりはなぜ会ったんだろう?」 探偵「おそらく現地のプロモーターが、日本から来るレスラーは日系人に任せるような感じにしてたんじゃないでしょうかね?先輩が言われるように、この海外武者修行の力道山と東郷の関係が詳細に書かれている書籍は現在皆無なのでわかりませんが、当時の遠征組はほとんど東郷と接してはいますからね」 先輩「当時の遠征組はほとんど東郷と接している。そこなんだよなぁ・・・」 探偵「と言うと?」 先輩「普通、海外武者修行ってどんな感じかな?」 探偵「海外武者修行なら、まず遠征先の窓口役、だいたいブッカーですね。ここに事前連絡が行って、行ったあとは窓口役が世話役兼ねてやるか、あるいは世話役紹介してくれてやるような、そんな感じじゃないですかね。テリー・ファンクや大剛鉄之助なんかピンときますね。あとミスター・ヒトとかですか」 先輩「そう、プロレスが日本に定着したあとのプロレスラーの武者修行なら、確かにそうだった。でも力道山デビュー以前は日本にプロレスという組織もなかったしプロレスの知識を持ってる人もいなかった。プロレスがまだ日本にないんだから、プロレスという概念がなかったわけだ。だからプロレスラーもいなかった。ということは日本からプロレスラーとしてアメリカ来るプロレスレスラーもいなかったわけだ」 探偵「はい」 先輩「ということは日本とアメリカ間にはプロレスのパイプも当然なかったはずだよね?」 探偵「そうですね」 先輩「東郷は日系人にしろ、この時点では日本に行ったことは一度もない。だから普通に考えれば日本や日本から来るレスラーとは、まったく縁がなかったはずじゃない?」 探偵「そうですねぇ・・・単身アメリカに渡りプロレスラーとして活動していたレスラーは戦前からいたようですが、彼らはそもそもプロレスは知らなかった。プロレスがどんなものかを知っていて、やってみたいと渡米したわけではなかったんですよね。スカウトされて渡米した後にプロレスを初めて見てレスラーになったり、海外で自らがやっていた相撲や柔道を介し、レスリングやプロレスと出会って試合に出るようになった、という感じですもんね」 先輩「そう、ソラキチ・マツダやタロー三宅やキラー・シクマとかね」 探偵「それに、先に名前が出たハロルド坂田やボビー・ブランズが日本で行ったプロレス、力道山がデビュー戦をしたリングは日本国外の宗教団体であった在日トリイ・オアシス・シュライナーズクラブが主催したもので、このクラブに招かれた元ボクシング世界ヘビー級チャンピオンだったジョー・ルイスが朝鮮国連軍の慰問を目的としてプロレスラー7人を引き連れてきて行われたものですから、日本のプロレス前ですね」 先輩「とするとね、遠征組は何を伝って海外武者修行に行ったんだ?力道山、木村政彦に大山倍達、遠藤幸吉と、当時の遠征組はみんな東郷と接触しているけど、どういうルートで海外行って、どうやって東郷と接することができたんだろ?」 探偵「確かに・・・考えたこともなかったですが考えると疑問です。今、名前が出ましたが52年の3月末頃に、のちに極真空手を創設する大山倍達総裁と元プロ柔道でのちに日本プロレス入りする遠藤幸吉が渡米し、東郷と合流して・・・大山総裁をマス東郷、遠藤をコウ東郷として兄弟とし、東郷ブラザーズを名乗りアメリカをサーキットしていたのは有名ですね」 先輩「そうそう、東郷ブラザーズ。東郷は相変わらずのスタイルで試合しつつ悪役人気を集め、マス東郷は演武やデモンストレーションを行っていて、各地で高い人気と評価を得ていたんだよね。試合もしていた記録があり、空手でプロレスラーと戦った話もある」 先輩「遠藤も柔道のデモンストレーションも行っていたけど、力道山のあとボビー・ブランズの下でプロレス修行したこともあり、プロレスの試合経験は大山総裁よりもあったからシングルやったり東郷とタッグを組んだりしてたみたいだ。でも勝ち星にはあまり恵まれなかったようだが・・・」 探偵「で、この東郷ブラザーズが・・・?」 先輩「そう、大山総裁と遠藤のふたりが渡米した理由を調べていったときには空手や柔道など、スポーツ普及に関係する体育協会等の招聘で・・・という話が出てくることがある。しかし本土に渡米後は、ふたりは真っ先に東郷とコンタクトしているんだよ。なんらかの協会からの招聘だったなら、まずその協会関係者に会うはずだよね?しかし、後にも先にもそんな記述は出てこない。ふたりが会ったのはプロレスのグレート東郷なんだよ」 探偵「浅田真央ちゃんがフィギュアスケートの普及のためにアメリカから招聘されて行き、いざ行ったらマクマホンに真っ先に会ってっいた、って感じですかね」 先輩「すごいたとえだが、まあそうだね。それに招聘だったにしろ、体育協会でなくロサンゼルスのプロレス組織からの招聘だったという話もある。ああ、それなら筋が通る・・・と思ったら追及が足りない。ロサンゼルスのプロレス組織って言うけど、じゃあロサンゼルスのプロレス組織ではどこから大山総裁と遠藤のことを知り招聘したんだ?」 探偵「そうか・・・パイプがない時代にどうやって?という疑問ですね」 先輩「そうだね。で、かくしてふたりがロサンゼルスに来て東郷と接したが、その際には、東郷からすぐ兄弟という設定でやることを知らされたらしいんだ。ふたりはそれがイヤだったので自分たちは本名でやりたいんだと東郷に言ったところ、もう試合は東郷ブラザーズで発表してあって、新聞等にそれで名が載せてあるんだからダメだと怒られたらしいんだ。つまり・・・」 探偵「大山総裁と遠藤が来るのを東郷は事前に知っていたと?」 先輩「そう。プロモーターさん、今度来るふたりは空手と柔道の達人です。ワタシは兄弟ってことでやりたいんですがどうですか?オゥ、トーゴー!!それはいい!!ゼヒやってみてくれ!!で、新聞に載る。これは直前じゃ無理だろう?」 探偵「そういえば・・・大山総裁が渡米した理由に空手を海外で広めるという目的があったのはもちろんなんですが、大山総裁の書籍では、総裁はグレート東郷の用心棒役、つまりポリスマンとして海外へ・・・という話もありました」 先輩「それは来るのがわかっていたことをさらに裏付けるね。会ってその日に空手をやっていると聞いただけではポリスマンなんて絶対任せられない。やはり空手の実力を前もって知っていないと任せられないよ」 探偵「そうですね。この辺に先程の先輩の新聞の名前の話と合わせると、事前連絡が取れる状態、東郷と日本の間には当時は存在していなかったはずのパイプがあったのかもしれません」 先輩「うん。日本の情報が東郷に行くようになっていて、遠征組には東郷に辿り着くようなルートがあった。そして東郷が遠征組を収める仕組み、独自の東郷のコネクションっていうのかな・・・そういう"力"があったんじゃないかな。海外のプロレス界で顔が利き、人を動かせるような"力"がね」 探偵「言ってみれば権力とも取れますね」 先輩「うん。“力”に関して言えば、こうしたルートの存在もそうなんだけど・・・当時の東郷ブラザーズはプロモーター下でやっているというよりは、東郷を中心にコウ東郷、マス東郷、そして表向きは東郷の通訳だった“羽田”という人物の4人で全米を転戦していたそうなんだ。で、そこに一緒にテレビ局もついていたらしいんだよ。このテレビは東郷ブラザーズにおいてもマス東郷の演武が大半を占めていたようなんだよね」 探偵「東郷ブラザーズという小集団にテレビ局が・・・なんだか東郷ブラザースがひとつのプロダクションのようになっていようにも感じられますね」 先輩「プロダクション的・・・そうだね。まるで小さな組織みたいだよね。かくして東郷ブラザーズは各地の転戦先に行ってはそろって試合に出場できて、別にテレビ局もついていた。こんなことが普通できるかなぁ?よほど信用、信頼されているか、東郷のバックに強力なスポンサーがいたのか?別に強大な力があったのか・・・そういうものがないと無理なんじゃないのかなぁ」 探偵「“力”ですか・・・」 先輩「まあ本当のところそれがなんだったかは、おれにはわからない。でも東郷は各方面で顔が利く何かしらの"力"を持っていたんだと思うなぁ。そういえば、もう10年以上にもなるけどドキュメンタリー作家の森達也が “悪役レスラーは笑う-「卑劣なジャップ」グレート東郷” という本を出版したことがあるんだ」 探偵「オウム真理教のドキュメンタリーなんかで有名な森達也ですか?」 先輩「そう。その本の中で謎として取り上げられていたのが東郷が何人だったのか?だったんだ。おれは日本人だと思ってるけど、先でも触れたけどそこにはいろいろな説があるんだ。かつて新日本プロレスで解説をしていた桜井康雄さんは熊本から移民した日系二世。元レフリーのミスター高橋は日本にしろ沖縄からの移民ではなかったかという。大山総裁とグレート草津は韓国と言い、また・・・あの日系人収容所時代は、母親が中国人なので自らをチャイニーズだと。なので日系人とは一線を置き、収容所では監視役をしていたという話も出ていたんだよ」 探偵「そ、そうなんですか!!」 先輩「でも・・・おれはちがうと思った。たとえばさ、それほど性格もよくなくて人からすごい親しまれてるってわけでもないやつがいるとする。でもそいつは知り合いが多くて顔は妙に広くて、仕事は上司受けがよくて。で、なぜだかいつもいい女を連れているんだよ。なぜかな?」 探偵「そうですね、おそらく口が立つんでは・・・」 先輩「そう。対話がうまいんだ。初対面の相手とすぐに仲良くなるには、共通の話題を持つということが一つの手段だ。たとえば出身地を聞いてみて、ああ、そこ出身なんだ!おれも近くなんだよ。それじゃ誰々って知ってるかな?知り合いなんだよ~なんて話は、誰しも一度は経験あるはずだよね。そしてそこから話題を広げていき、会話に同調し、意見する。こうすることで相手との信頼や信用の関係が深くなるというわけだよね」 探偵「いやぁまさしく・・・勉強になります」 先輩「ああ、ありがとう。で、ここに話を盛る、という要素を入れてみるとどうだろう?ああ、そこ出身なんだ!おれも近くなんだよ!あの曲よく聴くの?おれも好きでよく聴くんだよ!親近感を与えることができるよね。で、さらに、おれはこういうことができるんだ、おれは誰々と知り合いだからこうなんだ、だから何かあれば言ってくれよ。と他人にはできないようなことができるという話を聞かされたとする。でもこれがもし事実でなく口実で、話がまったくのウソだとしたら?」 探偵「事実でなかったとしても、その場の話としては通じてしまいますよね」 先輩「そう、まさにここなんだよ。ここからは完全に仮説で聞いてね」 探偵「はい」 先輩「東郷は話す相手によって話を使い分けていたんではないだろうか?実際は日系日本人だけど、そのとき自分が中国系が都合いいなら中国、韓国系が都合いいなら韓国と・・・」 探偵「なるほど。あくまで想像ですが、日系人収容所のときは日本人だと大変な目に合うので母親が中国人というふうにしてしまえば・・・有利になりますよね。東郷はアメリカにずっといたわけですから故郷のことはわからない。でも現実に今、目の前にある会話の中で、自分が日本人とせず韓国人の血が流れているんだ、中国人の血が流れているんだとしておいた方が共感が 得られ、都合がよい場面が多々あったから・・・つまり生きて行く上でその方が自分が優位になれるから、ということですね」 先輩「そう。よく言えば世渡り上手。悪く言えば、自分に都合のいいヤツだね」 探偵「自分に都合のいいヤツ・・・いますねそういう人。生きていると、何年かに一度は遭遇しますよ」 先輩「そう、たまにいるね。まあ東郷にしてみれば、ウソでも話を合わせてしまうのは、あの時代に生きて這い上がっていくための手段だったんだろう。しかし出身地に関しては、本当のデータを証明できるものが存在しなかったから、今までウソで話してきた出身地が所々で残り、多国出身説になってしまったんではないのかな?」 探偵「そして、出身地ばかりではなく、様々な場面で東郷はこの話術を使い分けたんでしょう。プロモーターやテレビ局の関係者、当時はギャングもいたでしょう。プロレスに関わる表の顔、裏の顔の人たち。各方面で顔馴染みになり、やがて信頼を得て“力”を持っていったんではないか?ということですね」 先輩「そりゃ裏切りや相手をキズつけてしまうようなウソもたくさんあったかもしれない。でも、東郷が生まれ過ごしてきた時代・・・貧困の移民の立場で、大戦中には生活を遮断され、終戦後も差別下にあった。農民の子だった東郷が普通に生きていたら一生貧民で終わっていただろう。そんな世の中だったから、どんな手段を使っても這い上がってやる!!おれは金持ちになるんだ!!という反骨精神が生まれた結果だったんじゃないのかな」 探偵「悪役プロレスラーとして知名度を高め、強大な富を得て、そして巧みな話術で関係を築き、それが結果“力”になったと」 先輩「うん“力”なんだろうなぁ・・・プロレス・スーパースター列伝のブッチャー編に、同情されるくらいなら憎まれろ!それが男だ!ってセリフがあるけど、これはまさに東郷のことなんだと思ったね」 探偵「同情されるくらいなら憎まれろ、かぁ・・・」 先輩「ところで・・・エルヴィス・プレスリーって知っている?」 探偵「ぷ、プレスリーですか!?もちろん知っていますよ。ロックンロールの創設者のひとりでキング・オブ・ロックンロールといわれたアーティストですよ。あのビートルズもメンバー全員が憧れていたという・・・でもなんで急に?」 先輩「当時、そのプレスリーを日本へ呼ぶという話が出たことがあったそうなんだ。しかしその当時の日本にプレスリーとコンタクトを取れる人間はどこを探してもいなかったんだ。そこで、どうしたと思う?」 探偵「どうしたんですか?」 先輩「グレート東郷に頼んだんだよ」 探偵「えええ!!」 先輩「“悪役レスラーは笑う-「卑劣なジャップ」グレート東郷”によれば、力道山の秘書を務めていた吉村義雄という方のお話で・・・テレビ朝日の依頼でこの吉村さんがプレスリー招聘のために走り回っていたことがあったそうなんだ。しかしあちらは世界的なスターだったし、情報も現在のように流れていなかったからそう簡単にコンタクトが取れる時代ではなかったんだよね。で、困った吉村さんは東郷に相談してみたそうなんだよ。そしたら東郷がオーナーを務めていた自動車販売店の社長がプレスリーにコンタクトが取れる組織の者・・・マフィアのボスだったそうなんだ」 探偵「な、なんですかそれは!!す、すごすぎるにもほどがありますよ!!」 先輩「まあ結局プレスリーは交渉の段階で条件面などで折り合いがつかなかったので日本へは来なかったが、東郷が仲介をして日本からプレスリー側に連絡が行ったのは事実なんだよ」 探偵「東郷って一体何者だったんだ・・・」 先輩「おれらの想像なんかよりもっとすごい“力”が東郷にはあったんだろうね。それに、そういった"力"だけじゃない。見てくれよ。力道山に木村政彦に大山総裁だよ。プロレス、格闘技の世界でいまだに語られる祖たちが、みんな一度は東郷の元へ来ているんだ」 探偵「勢力、権力的な“力”だけでなく、運命を引きつける“力”も持っていたんですねぇ・・・」 その3に続きます。 ※今回はシリーズ全9回になります。コメント欄は最終回で開きます。よろしくお願いします。
初本土地のサンフランシスコでファイトする力道山。まだショートタイツの貴重な写真だ
慰問試合を行った、右からハロルド坂田、アンドレ・アドレー、オビラ・アセリン、レーン・ホール、ボビー・ブランズ、ケーシー・ベーカー。ここにジノ・バクノンを入れた7人で行われた
56年11月、田園コロシアムで体重560キロという獰猛な牛の雷電号と戦った大山総裁。アメリカで空手の強さを示した後、日本ではこのような戦いをすることがあった
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名レスラー伝~地獄の大悪党!!グレート東郷 その2 東郷の"力"とは?~
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