探偵「そうですよね。世の中って、話しやすい、話しづらいありますよね。ものすごい頼みづらいイヤなことを誰かに頼まなきゃならないことがあったとして、この人には頼めるんだけど、この人には頼みづらいってありますよ。逆もしかり」
先輩「そうだね。逆に明らかにイヤなことや断りたいことなのに、この人から頼まれると断りずらいというのもあるね。一見愛嬌あるんだけど、相手に断らせないような空気を持っているというか・・・東郷はそういう面でも長けていたんだろうね」
先輩「ははは、そうだな。で、次の来日となったのが61年の 第3回ワールド大リーグ戦だ。このときのメンバーはアイク・アーキンス、ロニー・エチソン、ジム・ライト、ビッグ・ビル・ミラーのミスターX。ヘラクレス・ロメロ・・・そして密林王グレート・アントニオにカール・クラウザーだ」
先輩「日本からは力道山、遠藤幸吉、豊登、吉村道明。グレート東郷は前回と同じく日系代表で参加したが、ここにもうひとり日系代表でハロルド坂田が加わるんだ」
探偵「ハロルド坂田!!ということは日本で東郷ブラザーズが実現したんですか!?」
先輩「実現したのかなぁ・・・当時の雑誌や新聞等の資料が何分入手困難でね。わからないなぁ」
探偵「ざっと56年前ですもんね・・・見てみたいなぁ。それにしても興味がつきません。カール・ゴッチの初来日も歴史的ですが、今なお強烈なインパクトといえば密林王グレート・アントニオですね」
先輩「そうだね。このときは東郷はリーグ戦にも参加したけど、アントニオのマネージャーとして能力を発揮したね。身長190センチ以上、体重200キロ以上という巨漢が初来日一発目、さっそく空港で出迎えたプロレス記者たちを声を張上げながら追い回して度肝を抜かさせた。のち、その怪力で神宮外苑で満員の大型バス3台を引っ張るパフォーマンスを見せ、手の付けられない怪物だ!!とファンの興味を集め大ブームとなった。そして、その上での、なんと言ってもこれだね」
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東郷に鎖で繋がれて入場するアントニオ
探偵「もう言うことないですね。アントニオの怪物感を最も表す象徴的シーンですよ」
先輩「実はアントニオは海外ではあまり知られていない無名のレスラーだったらしいんだ。でも日本では東郷や力道山のアイデアで数々のパフォーマンスで強烈なイメージが植え付き、多くの人の興味を向けさせることになり観客動員や視聴率に大きく貢献する結果となったんだ」
探偵「力道山のNWA戦後に低迷してしまったプロレス人気は第1回、第2回で上昇線になり、この第3回で完全回復、いやそれよりも上回ったわけですね」
先輩「晩年まで評価はよくなかったアントニオだったけど、今回に限ってはアントニオ様様だよね」
探偵「そうですね。ゴッチの技術や強さはプロレスファンなら知ってのとおり本当にすごくて、それこそ現在の格闘技界においてもその評価は高いです。でもまったくプロレスの概念がなかったゼロの状態から力道山のプロレスを知り、それを見てきた当時の人たちが当時ゴッチのスタイルを見たとしても、何が他のレスラーとちがってすごいのか?ジャーマン・スープレックス以外は正直わからなかったと思うんですよ」
先輩「確かにわかりやすかったか?と問えば、そうかもしれないね」
探偵「そこにきて、ものすごいでかくて、なに考えてるかわからなくて、危なくて、とんでもない怪力という・・・誰が見ても単純に"すごい"とわかった方が万人の興味は引きますよね。ここに目をつけてマネージメントした東郷はやっぱりすごいと思うんですよ」
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試合が終わっても暴れ制御不能なアントニオに鎖をかけ抑える東郷。数人で押さえつけるその中には若き日の猪木の顔も見える。こうした怪物ぶりに日本中が釘付けとなった
先輩「アントニオは一時期のボブ・サップみたいなものだったんだろうね。さて次は62年の 第4回ワールド大リーグ戦だ。第1回から見てきて最もすごいメンバーがそろったといわれる大会となった。そのメンバーはデューク・ホフマン、マイク・シャープ、ラリー・ヘニング、アーノルド・スコーラン、ミスター・アトミック、バディ・オースチン、フレッド・ブラッシー、ディック・ハットン、そしてルー・テーズだ」
探偵「まずルー・テーズ。そして今現在、名前を出す人はいませんが実はテーズやゴッチより強かったのではないか?といわれるディック・ハットンですね。この時点で超実力派の元NWA世界王者がふたりいるというのがものすごいですが、ここにドリル・ア・ホール・パイルドライバーの"キラー"バディ・オースチンと噛みつき魔、吸血鬼フレッド・ブラッシーという超ヒールもいるのがさらにすごい」
先輩「そこに第1回で人気だったミスター・アトミックにミスター・パーフェクトことカート・ヘニングの父"バイキング"ラリー・ヘニング。そしてこれまたアンドレのマネージャーとして日本にも来ていたアーノルド・スコーランと、豪華なメンツとなったね。そして日本陣営は 力道山、遠藤幸吉、豊登、吉村道明、グレート・東郷。ここに新たに長沢秀幸、土佐の花、大木金太郎と猪木完至、つまりまだ若手だったアントニオ猪木が加わるんだ」
探偵「馬場さんより猪木さんの方がワールド大リーグ戦参加が早かったんですね」
先輩「そう。馬場さんは61年7月から63年3月まで1回目の海外武者修行に行っていたので、このリーグ戦には出ていないんだ。馬場さんも海外で東郷とは関わりがあったんだけど、その話はあとで触れるとして・・・第4回のリーグ戦の話を続けるね」
探偵「はい」
先輩「先にも話したけど、参加メンバーの豪華さで人気度が高まったこの大会だったが、実は第3回まで盛大に開催されてきたワールド大リーグ戦も、このあたりでややマンネリが見られてきたらしいんだ。テレビでは高視聴率だったんだけど興行面では下降してきたようだったんだね。その辺の事情も含めながら話を聞いてもらうと・・・このシリーズは東郷絡みで、それまでなかったような社会を巻き込んだ事件が起きてしまったんだ」
探偵「事件!?」
先輩「そう、老人ショック死事件だ」
探偵「し、ショック死!!どういうことですか!?」
先輩「それは4月27日の神戸市王子体育館にて行われた力道山、豊登、グレート東郷vsルー・テーズ、フレッド・ブラッシー、マイク・シャープという6人タッグマッチだった。この日、テレビが生中継だったこのメインの試合で、ブラッシーは得意の噛みつき攻撃で東郷を大流血に追い込んだんだが・・・」
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問題となった神戸市王子体育館での6人タッグ。ブラッシーとテーズが同じコーナーにいるだけでもすごいが・・・
探偵「まさかそれをテレビで観ていた老人が!?」
先輩「そう。このときは・・・元々、流血王や血笑鬼というニックネームがあったくらい東郷の試合は流血試合が多かったので、そこはおなじみではあったんだけれど、偶発的な流血でもなく凶器によるものでもない、それまで日本人がテレビで見てきたプロレスや相撲やボクシングなど格闘技の中で見たこともなかった"噛みつき"という攻撃での大流血だっだから、たまったもんじゃなかった」
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背後から嚙みつかんと迫るブラッシー。このシーンに日本中が恐怖した
探偵「今にしたって、たまったもんじゃないビジョンですよ・・・」
先輩「そうなんだ。それだけでも刺激が強すぎるのに・・・東郷は大流血の中、チョップや頭突きで反撃したらしいんだが、この東郷の反撃のたび額から多量の血が飛び散ったらしいんだよ」