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Channel: 団塊Jrのプロレスファン列伝
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青春の中のUWF~キミはU-COSMOSを見たか? パート2~

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UWF・・・決められたルールの中で誰が最強かを決める格闘技集団である。彼らには飾り物のチャンピオンベルトもなく、派手なリングコスチュームもない。あるのは、自分こそが最強であるということのプライド、そしてむき出しの闘争心だけである。そんなUWFの1989年11月29日、東京ドームでの試合を振り返っていただこう(ナレーション 政宗一成)

では、行きましょう!!しつこいようですが、濃いですからね!!

プロフェッショナルレスリング
第1試合  30分1本勝負
中野龍雄 vs宮戸成夫

 

この大会中、唯一のUWFスタイル同士の試合ですが、冷静に考えると枝分かれする前のUWFで、UWFスタイル同士で東京ドームで試合したのはこれしかないという貴重な試合ですね。

試合前の宮戸の握手を中野が拒否し、ゴング早々から激しくやり合います。UWFの試合は、キックや関節技が軸となる攻防ですが、新生UWFでは何度も戦っているふたり。この日のこの試合は全体通して感情むき出しな、まさに取っ組み合いの状態から張り手、ぶん殴りに近いボディへのパンチで火花が散ります。お互い顔をグイッと押して押し合ってみたり、ヘッドバットにしたら動物的、生物としての本来の戦い方、まさにツノとツノのぶつけ合いです。


今では聞かれなくなった“ルールあるケンカ”

これがお互い随所で見られました。この攻防がいいですね。効く、効かない云々ではなく張られたら張り返す!!意地でひっぱたく!!頭を当てられたら当て返す!!中野のも宮戸のも、ゴツ!!ゴツ!!という感覚が見ていても伝わってくるほどでした。グランドの攻防も中野は上になれば関節を取るわけではなく、前腕からヒジを相手の顔に押しつけて睨みつけます。すると一方の宮戸も感情むき出しでいきます。


宮戸の表情もいい!!

技や技術をきれいに見せようとか、そういうのではなくて気持ちなんですよね。これがいいですね!!


最後はスリーパーだった

結果は7分9秒、中野が意地の 裸絞めで宮戸を降しています。お互いに、おまえには負けない!!という気持ちと気持ちの張り合い、意地と意地のぶつかり合いなんですよ。今見てもワクワク、ドキドキして興奮してしまい、そして応援したくなります。ボクはこの試合がこの日のベストバウトだと思います。


異種格闘技戦
第1試合 3分5ラウンド
安生洋二 vsチャンプア・ゲッソンリット

 

さあ記念すべき異種格闘技戦第一試合です。

いつの時代も立ち技最強を語れば必ず名を連ねるのがタイ国で400年以上の歴史を持つといわれるムエタイですね。正規のプロ選手から女性、小学生と、幅広い競技者層と何万人という競技人口を誇るムエタイは、そのほとんどが軽量選手なのですが、このチャンプアは体重75キロというムエタイとしては稀な大型に類する選手でした。そのため対戦相手がいなくなり、この頃はタイからアメリカに戦いの場を移し試合を行っていたといいます。当時の戦績はこのときで60戦48勝(6KO)10負2分で、ラスベガスで対戦相手のマーシャルアーツの選手の足を蹴り折ったという情報以外、当時は映像も写真もない、情報がない選手でした。そう日本ではまったくの無名だったのです。まさに未知の強豪でした。

対するは安生・・・チャンプア、ムエタイだと確かに大型ですが、しかしながらレスラーと比べればそれでも選手としては軽量です。このあたりからか、安生は当時公称98キロですが、チャンプア側からの要求により体重差10キロ以内での試合という契約が設けられてしまいます。このため安生は減量し体重85キロで試合に出場しますが・・・この減量だけでも大変なのですが、実は試合のだいぶ前から安生はケガをしてしまい、練習が充分に行えてない状態での試合となりました。ふたりの戦い、一体どうなるのでしょうか?

さて。UWFが世に出てからこそ、それまでなかったロープエスケープをロストポイントとして効果を現してくれましたが・・・この当時はまだ異種格闘技戦で打撃系vsプロレスとなると、打撃側はフリーロープエスケープ、つまりロープに自由にエスケープできる形が当然でした。

そう、レスラーが捕まえて倒し寝技に持っていっても、やられてる方は技が決まる前にロープに触りさえすれば即ブレーク。立った状態からまた始まるという形が当たり前だったんですね。もちろんプロレス側にもフリーノックダウンというのが設けられましたが、打撃を受けてダメージを受けダウンしてから何回も起き上がって試合続けるのと、組まれ倒されてダメージを受ける前にロープエスケープしながら試合続けるのとではまったく意味がちがいますよね。基本、異種格闘技戦は打撃系に有利な点が多かったんです。しかし、逆に言えば組んでしまえばプロレスがそれだけ強かったということになります。

なので、打撃を当てる相手をいかに捕まえて仕留めるか?これがひとつの異種格闘技戦のテーマでした。当時、見るボクらにも当然、根本にそれがありました。

しかしながら試合が始まるとチャンプアは、これまでの格闘技戦ではなかったことをしました。それは、ずっとロープを背にして戦うという戦法でした。

先程も述べたように、確かに当時、打撃の選手は組まれたら不利でした。でもリングに上がれば皆、リング中央で向かい合いって戦いました。そこから組みつかれエスケープとなるので、見ているボクらにも

「ああ、これはロープ際だ・・・逃げられちゃうな」

「あ、これはリング中央でポジションがいい!!」

なんていうのがあったんですね。

しかしチャンプアは何かあったらすぐロープを掴める位置を取り、前へ出てこなかったんですね。このポジションから打撃を出し、安生が組みに出るところをカウンター、そして組まれればロープへ即エスケープという戦法を取ったんです。



常にロープに近い位置にポジションから攻めるチャンプア

活躍した初期のK-1、K-2などでもわかるように、本来は左の蹴りを武器に前に出るファイト・スタイルのチャンプア。しかし、安生戦にかなりの対策を練って来たようで・・・あのムエタイ独特のアップライトの構えを取りつつ、しかし安全なポジションをキープしながら打撃を当て、じわじわとダメージを与えながら試合を進めていきます。

の打撃力は打たれただけで全身に痛みが走ったと安生に言わせたほどのローキック。スピードもあって、早々に放ったそれには会場内もどよめきました。そしてラウンドを通して最もヒットしたミドルはレバーを的確にとらえていきました。カウンターパンチは槍のよう・・・とにかく攻撃はどれも強力。あのロブ・カーマンがKO負けしてしまうのもうなずけます。


パンチは鉄球の付いた槍、キックは鞭・・・まさに恐るべしはムエタイ

この戦い方はUWFファンにとってはイラ立つところもありました。しかしチャンプア側としては持ち前の攻撃力とルールをうまく使った考え抜かれた戦法、いわゆる負けないための戦い方だったわけですね。

しかし、これに対し素晴らしかったのは安生。チャンプアの打撃を受けながらも交わして前に出て果敢に捕まえにいきます。

組みついてスタンドでのヘッドロックから勝機を狙う

その流れでまず驚かされたのは安生のスタンド技術ですね。受けは、ヒットするのは仕方ないとしても、すべてではありません。安生は戦いの中でチャンプアの蹴りを捌いて流したりミドルに合せ軸足蹴ったりしてるんですよ。このときまで、こんなプロレスラーを見たことありませんでした。すごい!!

そして攻撃面でも安生は果敢。ミドルを当てていきます。安生のそれまでのUWFの試合での蹴りはヒザから最短で素早く出す感じでしたが、このときはスイングをやや大きくして威力を重視しているように感じました。これが数回、チャンプアの脇腹からレバーに入りましたが、ムエタイの選手にミドル入れるなんて、なかなかできないですよ。すごい!!

そんな中、打たれ強さも見せましたね。先にも述べましたが、試合では何度かカウンターのパンチが入りました。中でもすごかったのが1ラウンド早々に決まった左です。安生が組もうと勢いよく出てきたところコーナーを背にしたチャンプアがドンピシャのタイミングで放ったこれがおもいっきり入り、首が後ろにカクンとなって安生の顔が完全に上を向いてしまったシーンがあったんですね。ここで安生は一瞬ヒザを着きましたが、そのあとすぐ組みにいくんですよ。いやこれは・・・普通ならここでダウンして終わりですよ。でも倒れないんですね。何回も言ってしまいますが、すごいしか言葉が出てきません。

チャンプアの攻撃を搔い潜って組みついてはスタンドでのヘッドロック、そしてフロントチョークも出ましたが、これらはチャンプアが人生で味わったことない痛みだったと思います。人間て逃げようがなくて痛いのや苦しいのって、やられたダメージよりも心がやられてしまって、すごくコワくなるもんなんですよね。これはそういう思いしたんじゃないですかね?技がかかっていたのは短時間でしたけど、ラウンドを追うごとにチャンプアのロープエスケープが早くなっていったあたり、これらにはそう思わせる威力があったと思います。

しかしながら捕まえられず・・・結果はフルラウンドを戦ってのドローとなりました。試合後喜びが顔に出るチャンプアと、残念そうな、ちょっと悲しい安生の表情が印象的でした。

猪木vsアリは知っての通り歴史的な出来事でした。でも長く歴史があり立ち技最強と言われていたムエタイの、しかもトップランカーがプロレスのリングに上がりレスラーと異種格闘技戦を行ったというのは、これが初めてだったんですよね。ボク的にはこれは歴史的出来事だったと思ってます。そしてレスラーがこの条件下で、これだけ打撃系と渡り合ったのもまた歴史的だったのではないかなと思います。何度見てもいい試合です。


異種格闘技戦
第2試合 7分7ラウンド
鈴木みのる vs モーリス・スミス

 

さあ今だ語られる伝説の試合です。

モーリス・スミスは、かつて格闘技やプロレスファンなら知らない人がいないほど名を馳せていたマーシャルアーツ(この場合の意味では全米プロ空手を指す)の選手として、また世界キックボクシング協会のタイトルでありますWKA世界ヘビー級の現役王者として参戦してきました。このときのキックの戦績は37戦31勝(21KO)3負3分。見ての通り非常に高いKO率です。日本へは87年9月5日に後楽園ホールでスティーブ・トレンブレイと対戦以来、約2年ぶり3度目の来日でした。

一方、当初出場予定だった船木が練習中にケガを負い出場断念。鈴木の登場となりましたが、思えばこれが運命の始まりでしたね~。

さて、先ほどは異種格闘技戦の見解を述べましたが・・・そう打撃系vsプロレスの歴史には"組まれたら"というテーマがありました。しかし安生vsチャンプア戦と同じく、意味はちがえどその常識が覆った試合になったのではないかなとボクは思いました。

これまでプロレスと異種格闘技を戦ったキック系の選手、UWF系ではドン・ナカヤ・ニールセンやジェラルド・ゴルドーがそうでしたが、双方ともアクティブに攻めながら、捕まれば実に柔らかくロープエスケープをするのでレスラー相手には手強い選手でした。特にニールセンのロープへのエスケープはひとつの技術のように成り立っているほどうまいものでしたね。しかし、そんなニールセンやゴルドーもタックル自体には無防備なところがあり、入られ倒されてからの対応となっていました。

そこにきて先程のチャンプアは、その点を考慮して中央で戦わず常にロープ際での戦いを作戦としました。倒されてしまうのは仕方ない。だからテイクダウン奪われたあとの対応を考えよう。そうだロープ側にいて即エスケープできるようにしよう、というわけですよね。

ところが、展開はまさに対極でした。スミスはリング中央でアクティブに戦いながらテイクダウンを奪われない動きを見せたんですよ。それはこの試合で、それまでのプロレスvs打撃系の格闘技戦になかったこと・・・モーリス・スミスが鈴木の"タックルを切る"という技術を見せたことにありました。

イゴール・ボブチャンチンやミルコ・クロコップの戦い方を覚えている方も多いと思います。相手からの組みを交わしタックルを切りながら打撃を当てていくあの技術は圧巻で、多くの対戦者が苦しめられましたよね。

総合格闘技は現在MMAと呼ばれるようになりスタイルや技術も確立されました。だから今でこそ"タックルを切る"という言葉も知れ渡り、珍しくなくなりました。しかし、そのような技術が世に出ていないこの時代に、キックの選手がレスラーのタックル切る姿なんて誰が予想したでしょうか?


これは衝撃だった

試合開始から、鈴木がタックル入ろうとしていなされた、つまり入る前に制御されたのが3回。そして完全にタックルしたのが3回ありましたが、3回とも切られています。切ったあとスミスは制御して、このあとエスケープしたり立ち上ったりするんです。レスリング上がりの鈴木相手に見事すぎる体さばきです。

鈴木自身ものちに語ったように、確かにコワさやダメージがあったため相手との距離もありましたし、頭が下がってのタックルもありましたので、この時点で威力が出しきれなくなってしまっていたのは否めません。でも、それにしたってですよ。入ってきたところにタイミング合わせてうまく切ってます。画像見ていただくとですね、ちょうどスミスの膀胱の辺りですね。人間ここに体の重心があるのですが、ここに砲丸投げの玉が入っていると思っていただくと解りやすいかなと思います。ここをですね、この砲丸投げの玉をタックルに来た相手に合わせ足を後ろに引きながらストーンと落としてやるわけですね。そうすると取れないわけですね。

ちなみに画像ですと砲丸投げの玉が鈴木の首から肩に来てますね。理想としては、スミスは本当はもうちょい後ろ、鈴木の首から肩あたりに自分の胸が来るように切れればという感じですが、まあそこはどうして。凌ぐには十分です。とにかく切るタイミングがうますぎでしたね。衝撃でした。でも一番衝撃受けたのは鈴木本人だったと思います。ここが最も精神的やられたときではなかったでしょうか・・・

また、スミスが蹴り足を掴まれテイクダウン奪われたシーンがありましたが、鈴木にとってはこの試合最大のチャンスでしたが、スミスは上に乗られならがもエビ(寝技における体の使い方。体さばきや技に入る形に精通する動き)の要領でロープまで行っちゃうんですね。組めない、テイクダウン取れない。で、強烈な打撃が来る・・・これは本当に万事休す状態だったと思います。


まさに、恐るべしスミス!!

実はスミスは普段からトレーナーやスパーリングパートナーを一切付けておらず、単独でのトレーニングしか行っていなかったんですね。それでありながらキックでは92年4月にピーター・アーツに敗れるまで8年間無敗を誇りました。そして格闘技戦が決り試合前までのインタビューなどでは相手の試合の映像は見ないし、対策的な練習はしないと言っていました。それでなぜ、こんな動きができたんでしょうか・・・本当に格闘技の天才だったのかもしれません。結局、試合は4ラウンド1分29秒でスミスがKO勝ちをしています。


ロープに持たれる鈴木、セコンドの船木、勝利に喜ぶスミス・・・この試合の象徴的シーンだった

しかしこの試合が出発点となり、時を経て鈴木は93年11月8日、94年5月31日とスミスに挑みます。2戦目はキック・ルールで挑んでの玉砕。3戦目は格闘技戦ルールではありましたがラウンドごとにグローブの脱着があるものでした。そんな中で鈴木は本来不利なグローブ有りのラウンドにテイクダウンを奪い腕ひしぎ逆十字で勝利しました。倒されても向かっていく鈴木のその姿には、格闘技に天才などいない、努力と気持ちなんだと教えられた気がしました。

パート3に続きます。

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