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Channel: 団塊Jrのプロレスファン列伝
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1976年6月26日 格闘技オリンピック(後編)

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さて、日本での猪木vsアリ戦を皮切りに、まさに戦うミラー現象、戦う生体共鳴と言っても過言ではないほどの、全米で同時開催されたビッグマッチの数々ですが・・・中でもプロレスvsボクシングという格闘ロマンの中で、もうひとつの世紀の一戦、アンドレ・ザ・ジャイアントvsチャック・ウェプナー戦が行われていたのを忘れてはいけません。


プロレス界で最強の大巨人とアリからダウンを奪った男・・・そんなふたりの戦いは試合から約1ヶ月半前の、5月の4日に行われた調印式で火ぶたを切りました。


双方、リラックスなムードでの調印式


壮絶な口での前哨戦が繰り広げられた猪木とアリとは対象に静寂の中で行われた調印式。しかし言葉を求められれば、必ずおれのパンチで倒す!とウェプナー。ニューヨークのスラム街で育ち、少年院、刑務所での服役という時代を経てボクサーになり、試合前には消化試合とまで評されたアリ戦では下馬評を裏返す、9Rにボディブローでダウンを奪い、TKOに屈するも15Rラウンドまで戦った男の闘志が静かに燃え上がっていました。


一方のアンドレは絶対有利と評されたとおり、終始余裕が見られました。223センチ、この頃だと220キロくらいでしょうか?アンドレの出現まで、プロレス界においての巨漢レスラーというのは、残念ながら本当に巨漢というだけの“見世物”の要素が隠せない、粗末な存在がほとんどでした。そんな認識下だったから・・・これだけの体を持ちながらパワーはもちろんスピードもあり、そしてなにより頭がいいアンドレの出現はセンセーショナルで、みるみる世界で一番有名な、そして世界で一番稼ぐレスラーへと成長していきました。実力、知名度、人気、どれを取ってもプロレスのナンバーワンとして申し分ないアンドレが、プロレスの代表としてボクサーと戦う・・・対アンドレに燃えるウェプナーですが、プロレスサイドはアンドレよりもファンが対ウェプナーに燃え上がっていた、そんな風に取れたかもしれませんね。


ウェプナーの挑発にも余裕のアンドレ


かくして世界の大巨人とアリからダウンを奪った男の調印式は済まされました。試合は3分10Rでプロレス、ボクシングとも技への制約はほとんどない、猪木vsアリ戦とは対照的なルール・・・


アンドレ・ザ・ジャイアントvsチャック・ウェプナー、注目の対戦は、いかに!?



さあ、決戦の始まりだ!!


1R、ウェプナーはジャブを出しながらけん制しますが、アンドレは左腕、手の平からヒジですね・・・この部分を前に出し、払うようにガードしながらジャブに反応し間合いを詰め組みに行きます。





いい動きです!!しかしこれ・・・実に理にかなった戦術ですね。手だけでなく二の腕、ヒジまでを前方に出しての構え・・・いわゆるガードというよりは、一見すると空手家がボクサーと戦うときに見せるサバキに近い原理なんではないかと・・・ちょっと思ったりもしました。足の動きも、絶好調の頃のアンドレだけあってすごくいいですね。先に書いたパンチの対応をしながら、ウェプナーのフットワークについて行っています。間合いのつめ方から組みつくまでも早いですね。巨体であることを忘れてしまうような動きです。さすがです。


対ボクシングが決まってから1か月半。特にこの試合のために猛特訓したわけではないはずです。なのでこれらの動きは、格闘技戦用に誰かにコーチを受けて実践したのではなく、アンドレが戦いながら自分で編み出したもの、だったんではないでしょうか?アンドレが賢くクレバーな人物だったのは有名な話ですが、やはり他の巨体だけのレスラーとはちがうことがよくわかります。アンドレ、すごい格闘技センスです!!


しかしこういったアンドレの動きにもジャブを合わせ、うまく回避し捕まえるたびロープにエスケープしブレイクに持っていくウェプナーもさすがですね。なかなかアンドレの思うようにいきません。この辺はウェプナーも百戦錬磨ですね。パンチもヒットします。


ウェプナーのパンチにさすがのアンドレも顔をしかめる


これを嫌がるアンドレはウェプナーをフロント・チョークに取ります。これは強烈!!この攻撃を回避すべくボディにパンチを見舞うウェプナーですが、態勢が悪くパワーが出せないので下がりながらロープへ。ここで1Rが終了します。


2Rも1R同様、ジャブのけん制からアンドレはガードしながら反応し間合いを詰めていき、ここでタックル。見事に足を取らえますが、この態勢からアリをも苦しめたウェプナー得意のラビット・パンチがアンドレを襲います。これに怒ったアンドレはウェプナーをロープへグィっと押し付けます!!


あ、頭が取れそう!!


このあとアンドレはウェップナーがグローブを付けた拳回りより大きい握り拳でウェプナーの首筋にパンチを一発浴びせます!!目で見てわかる衝撃と汗のしぶきが威力を物語ります。これはブレークの最中だったので注意を受けますが、これにイラついたウェプナーはアリからダウンを奪った宝刀のボディブローと共に突っ込んでいきます!!


しかしあまり効果もなく、このあともウェプナーのジャブとアンドレの組みつきの攻防となりますが、クリンチからのブレークに業を煮やしたのか?アンドレはブレイク間際にウェプナーのボディに強烈な膝蹴り一発!!これを金的とアピールするウェプナー。


だがしかし、次に組んだときアンドレは通常のクリンチでなく、カンヌキに取ります。そうここで、まさかのサルト!!そしてそのままグランドでポジションを取ります!!


1Rでのフロント・チョークに、カンヌキからのサルト・・・今でこそ見覚えもある技ですが、この時代からこんな技を繰り出してくるアンドレには心の底から脱帽です。本当にセンスがあって、頭がよかったんだなぁ~・・・


しかし、残念ながらここで2Rが終了です。


3Rは開始早々からアンドレが組みに行きます。クリンチではなくベア・ハックのような状態。これをウェプナーはまたもやラビット・パンチ乱打で応戦。いくらアンドレでもこれはたまりません。この状態を回避すべくアンドレはウェプナーの髪の毛を鷲掴みにしようとしますが、これは逃げられます。これに対し手につばをし、パンと打ち気合を入れ直すアンドレは再びベア・ハックのような状態に持っていくとスルリとバックに回り、後ろに投げるのか?と思いきや、持ち上げて・・・なんと!!


アトミック・ドロップ!!


何が起きたかわからないが臀部が痛いウェプナー!!そんな状態のウェップナーに間髪入れず今度は!!


伝家の宝刀!!ジャイアント・ヘッドバッド炸裂!!


強烈!!もはやこれで完全に戦意喪失だが、ダメ押しとばかりに抱え上げたアンドレ。ぼ、ボディスラムか!?それとも自ら禁じ手にしてしまった、あの伝説のツームストーン・パイルドライバーか!!


いや!?


アンドレはそのまま歩き出します。ウェプナーはまるでおもちゃ売り場で駄々をこね、親に抱っこされて連れて行かれてしまう子供のように軽々と持ち上げられてしまい、完全に成す術なしとなってしまいました。だが・・・駄々っ子をどうするアンドレ!?


なんと!!


まさにポイっという感じで場外へ放り投げた!! 





さらに・・・


ロープに引っかかった足を取るほどの余裕を見せ、完全に場外葬となりました。



場外で倒れこむウェプナー


アンドレの攻撃と、今までに経験したことのない数々の仕打ちに立ち上がることができず・・・3Rの1分52秒、そのまま場外カウントアウトとなってしまいました。さらにこの時代はスタジアムでの試合でも床にシートなど貼ってくれない状態なので、マウンドの土で泥だらけとなってしまい・・・ウェプナー、まさに屈辱の敗北となってしまいました。


リング上で勝ち名乗りを受けるアンドレ


だが、こんなやられ方で負けとはウェプナーの怒りが収まらない!!カウントだって早すぎる!!試合後ウェプナーはリングインしアンドレに突っかかってきました!!


肩や背中にスタジアムの土がついたままだが、そんなことはお構いなし!!


ウェプナーのセコンドがアンドレにパンチを入れたのが発火点となり、選手もセコンドも大興奮してしまい試合後は乱闘寸前となりましたが、なんとか事態は収まり・・・もうひとつの世紀の一戦はこうして幕が下ろされました。短い時間の勝負ではありましたが、アンドレもウェプナーも自分の持ち味、ポテンシャルを存分に発揮した、そして内容の詰まった、そしてそして見ていてドキドキ・ワクワクする素晴らしい試合でしたね。


猪木vsアリ戦を軸に、まさに戦いが連鎖し発生していったという表現が適切かもしれない76年6月26日、格闘技オリンピック。思えば・・・今ではプロレスの世界三大タイトルもなくなってしまったし、プロのレスリングができるプロレスラーもいなくなってしまいました。そのチャンピオンはいつも世のカリスマで、多くの人のヒーローだったヘビー級のボクシングのチャンピオンに限っては、顔すら知らない・・・そんな世の中になってしまいました。


しかし、遠きに行くは必ず近くよりす・・・いつかまた世の中が変わって、1976年6月26日のようになればいいな・・・




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