『猪木がベルトを手にした。そして藤波の腰にそっと巻きつけた・・・
「今アントニオ猪木にベルトが一旦渡された模様であります。そしてそのIWGP、己の栄光の足跡のベルトを、猪木は藤波の腰に巻く!!藤波は初めて、猪木に巻いてもらうことによって猪木を払拭するのか!?こんなシーンは見たことがない!!いかなる強烈な言葉も、このふたりの中には入り込めない!!」
15歳のあの日、病院のベッドの上でプロレスを見ていた。そんなボクが今、あの日と同じプロレスを見ている。月日として、あれから23年が過ぎ38歳になっていた。でもボクはこの試合を見ていくうちに今の自分でなくなっていた。結婚もしていない、子供もいない。車の免許も取っていない・・・まだ世の中のことなんかロクにわかっていない、坊主頭の高校一年生に戻っていた。まるで催眠術にかけられたように、心理状態も精神も完全に15歳の自分になってしまって試合を見ていたんだ。そう、それはまるで熱心なゆえ、手の平に聖痕が現れてしまうキリスト教の信者のように・・・(プロレス名勝負伝~アントニオ猪木vs藤波辰巳~ )より』
炎のファイターが流れる中さっそうと入場し、コーナーに向って立つ。ケロちゃんの、アーントニオーのコールでガウンの紐をほどき、イノーで振り向き、キーで両腕をバッと広げる。やがて五色のテープが飛び交う中、赤いタオルと鍛え抜かれた肉体が現れる・・・
自分よりはるかに重いレスラーを乗せても微動だにしないブリッジ。ヨッシャ!!という声に力こぶを振りかざしたリバース・インディアン・デスロック。テメーこのヤロウ!!の声、バックドロップ、延髄斬り、そして卍固め・・・
たくさんのちびっこファンが、毎週毎週こうしてアントニオ猪木を見て金曜日の夜を過ごしてきた。苦しい試合展開では応援し、勝利すればダァーを一緒にした。学校では、昨日猪木見たかよー!!と話をし、友達に卍やコブラをかけた・・・
あの日、あのとき、あのときも・・・お互いの姿を確認していたわけではないが、日本全国で、ボクらは同じ気持ちでテレビを見て、同じ気持ちで過ごしていたんだ。そして・・・大きくなっていった。
そんな猪木の特別な試合。それがあの88年8月の藤波戦だった。
猪木を見て育ったちびっこが、大きくなって感じた88年の猪木。どんなに強い相手と戦っても最後は絶対勝つ。しかし85年あたりからの猪木には、衰えを感じずにはいられなかった。アントニオ猪木と時の流れ・・・この試合が、あの猪木の最後の試合になってしまうのか・・・
あの日はファンにとっても単に猪木の試合だけが行われる、という感じではなかった。猪木を見て育ったファンが、それまでに見たことのない猪木・・・初めて引退という言葉が最後という言葉が圧し掛かった、特別な試合だった。だからファンそれぞれも、プロレスと共にそれぞれの人生を送ってきた上で見守った試合だった。時代を映す試合だった。
ボクは2005年11月にブログを始めた。それはお婿さんの日記のようにしようと始めたものだったのでプロレスの話はしない志向のブログとして始めたブログだった。しかし紆余曲折の方向性から内容が著しく変化し・・・とうとうプロレスのことを書いた日があった。そのときから、やっぱりおれにはプロレスなんだ。プロレスを書きたい、話したい・・・そう思い続けるようになった。
やがて一旦、最初のブログは終了した。そしてここ、アメーバでこのブログを立ち上げた。
立ち上げてまず、何を一番伝えたかったか・・・プロレスファンとして、ボクはどうしてもあの88年8月の試合を語りたかった。このブログを立ち上げたのはそのためだと言っても過言ではないほど、ボクはあの試合を語りたかったんだ。
2008年11月、こうしてブログが始まった。同時に、ボクはこの88年8月の試合を検索した。すると北の大地に、あの日あのとき、あの試合を見て同じ思いを持っていたプロレスファンの名が、飛び込んできたんだ。
それから、ボクらのやりとりはブログを通して始まり、続いていった。そして気がつけば約6年半の月日が流れていた。
思えば2010年秋、ボクは不景気の煽りで長年勤めた会社を退職するという事態に直面した。決まらない再就職先・・・家庭で後ろめたい、とてもイヤな時間が2カ月続いた。何か仕事をしなければ、働かなければ・・・ボクはやったことがなかったトラックの運転手をやり、やがて派遣社員として現在の会社へ行った。年齢的なこともあり、初めのうちは仕事も人間関係も大変な思いをさせられたが、なんとか派遣から契約社員になれたのが1年半前。そして今年2月、社員へ推薦され、選考を通り筆記試験と面接を奇跡的に突破し正社員になることができた。
転職、震災、家族の体調不良、交通事故、自身の体の不調と・・・本当ににいろいろなことがあった6年半だった。
だから・・・6年半もかかってしまった・・・
6月、ボクは紫レガさん(腕ひしぎ逆ブログ )に会いに来ます。
同じ金曜の夜を過ごしてきた。そして同じ日、同じ試合を見て同じ気持ちになった。住むところはちがえど、そう、おれたちはプロレスファンだった。
だから、おれは行く!!ファン同士の男と男の約束を果たしに!!
ボクの前に道はない。ボクの後ろに道はできる。
いや、ちがうな・・・
プロレスの前にファンはない。プロレスの後ろにファンはできる!!
さあ、史上最高の6月へ!!